ボストン美術館所蔵
「THE HEROES 刀剣×浮世絵-武者たちの物語」
森アーツセンターギャラリー
2022年3月21日(月)
会期終了間近のボストン美術館所蔵「THE HEROES 刀剣×浮世絵-武者たちの物語」に行ってきました。
ボストン美術館の日本美術のコレクションは所蔵数約10万点と世界屈指のコレクションで、今回は「HERO(ヒーロー)」をテーマに浮世絵を中心に作品を集めています。加えて約600口の刀剣コレクションから選りすぐりの名品も展示しています。
ヒーローですから「少年ジャンプ」の人気キャラクターと名場面を集めたようなものと言えばわかりやすいでしょう。アニメの企画展をよく行う森アーツセンターらしい展覧会といえます。
実際、大衆芸術である歌舞伎、講談、浄瑠璃などで伝えられてきた誰でも知っている物語や伝説のキャラクターの姿を形にした浮世絵は当時、大人気だったでしょう。
例えば、
「安西先生、バスケがしたいです。。。」
といえば、みんな胸アツになりますよね。(古いか。。。。)
この展覧会は、古事記・日本書紀にて伝えられる神代のものから、源平の合戦、戦国時代、江戸時代、空想の物語まで網羅しており、近代社会以前の日本の代表的ヒーローを観ることができます。
それでは、インパクトのあった浮世絵とそのストーリーをいくつか紹介します。
U-31 月岡芳年
「明治十五壬午季秋絵画共進会出品画 藤原保昌月下弄笛図応需」
今回、意外と知らない浮世絵ばかりだったのですが、この絵は知っていました。現代的な人物描写が際立っています。元々はタイトルの通り、月岡芳年が明治十五年に壬午季秋絵画共進会に出品した肉筆画です。中央で格好良く笛を吹いているのが藤原保昌(ふじわらのやすまさ)。右側で刀を抜こうと身構えているのが盗賊の袴垂(はかまだれ、変な名前です。)。盗みを働こうと付け回すが全く隙がなく家までついて行ってしまい、逆に呼び込まれて衣を与えられたという達人っぽい伝説です。
藤原保昌は武に秀でているだけでなく歌人でもあり、あの和泉式部を妻にしています。
U-36 歌川国芳
「清盛入道布引滝遊覧 悪源太義平霊討難波次郎」
武者絵や役者絵は漢字だらけで題名が読めないことがよくありますが、これも難しいです。
きよもりにゅうどうぬのびきのたきゆうらん
あくげんたよしひらのれいなんばじろうをうつ
悪源太義平(あくげんたよしひら)は源義平の通称です。義平は平清盛の討ち取ろうと謀りますが難波二郎(なんばじろう)に捕まり斬首されます。処刑される前に、雷となって貴様に蹴倒してやると言いはなち死んでいきました。
そしてその8年後。平清盛が布引の滝に遊覧に行った時、霊となった悪源太義平が言葉通り雷を落として清盛の家来の難波二郎を討ちます。雷が画面を縦横無尽に走り、人の理解を超えた超常現象をダイナミックに描いています。難点はどちらが正義かわからないから感情移入しにくい所です。
U-43 歌川国貞
「御曹子牛若丸 武蔵坊弁慶」
悲劇のヒーロー源義経(みなもとのよしつね)がまだ若く牛若丸(うしわかまる)という名だった頃、京都の五条大橋で夜な夜な刀狩りをする武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)を返り討ちにする人気のある伝説の一場面。牛若丸は笛を吹いて歩いていたという話もありますがこの浮世絵では描かれていません。伝説には諸説あり、絵画の演出上の工夫もいろいろあるということです。今の我々には平べったく止まって見えますが、牛若丸の服装は派手で豪勢、人物の線は太く力強くて、弁慶が振りかざす薙刀が右の画面を斜めに横切るほど大きさで迫力があります。
T-22 義経八艘飛び図鐔 銘 在川真正
刀の鍔は小さいですが武士のマストアイテムですから技巧を凝らした高価で繊細な作品が多くあります。お洒落な女性にとってのネールアートみたいなものです。
これも有名な壇ノ浦の海戦での源義経(みなもとのよしつね)の八艘飛び。敵将能登守教経(のとのかみのりつね)に襲われた時、脇に薙刀を抱えて海上の船から船へ飛び移る様子を躍動的に表現しています。そういえば先日観たYouTubeで誰かが本当は八艘ではなく一艘しか跳んでないと言っていました。
U-58 歌川豊国
しころ引き 「三保の谷四郎国俊 七兵衛影清」
平安時代末期、屋島の合戦において、源氏の大将、三保の谷四郎国俊(みほのやしろうくにとし)は奮戦するも刀が折れ退こうとしたところを、追いかける平氏の武将、七兵衛影清(しちびょうえかげきよ)が兜の後ろの部分、錣(しころ)をつかんで引っ張り合いになります。共に怪力同士、ついには兜の錣が引きちぎれてしまいます。
「兜のしころを引きちぎるとはなんたる怪力!」「首が折れぬとはなんたる首の力!やるな、お主。」
とか言ったとか、言わないとか。「少年ジャンプ」でもこう言うシーンよくあります。
U-48 歌川国芳
「宇治川合戦之図」
大判錦絵 三枚続のワイドな画面一杯に川の水面が揺れる構図がリアルで格好いい。明け方に見える明暗表現も臨場感を高めています。さすが歌川国芳。
源頼朝の命をを受け、木曾義仲を追討する二人の武将、佐々木高綱(ささきたかつな)と梶原景季(かじわらかげのり)が先陣争いで宇治川を渡っています。中央の絵の佐々木高綱は「生食」(いけづき)、左の絵の梶原景季は「磨墨」(するすみ)という名馬を源頼朝に与えられ、張り切っているのですが、ヒーローものとしてはこの二人の駆け引きはちょっとしょぼい話なので省きます。
U-77 歌川国芳
「巴御前」
男性キャラばかりになってしまいましたので、女性キャラも取り上げましょう。前の宇治川の戦いでは追われる立場になっていた木曽義仲の強い味方が巴御前(ともえごぜん)です。家来でもあり妾でもあったという話しです。この浮世絵は巴御前が平家の武将、武蔵三郎左衛門有国(むさしさぶろうざえもんありくに)を討ち取る場面。やはり怪力の持ち主で松の木を振り回して敵を倒したという話もあります。
U-J3 歌川国芳
「和田合戦 義秀惣門押破」
鎌倉時代初期の武人、朝比奈義秀(あさひなよしひで)が怪力で門をぶち破る場面です。
建暦3年(1213年)5月2日、義秀の父、和田義盛が鎌倉幕府に反旗を翻し将軍御所を襲撃、義秀は惣門を破って大活躍します。しかし奮戦むなしく多勢の幕府軍に押し返され、鎌倉から脱出。その後の消息は不明です。
義秀は大力の持ち主で、海に飛び込み鮫を三匹抱きかかえて浮き上がってきた、鎌倉の峠道をたった独りで一夜で切り開いた等、盛りに盛った伝説があります。この浮世絵の豪快な暴れっぷりもその伝説に負けていません。
気がつけば、歌川国芳の浮世絵ばかり選んでいました。武者絵は国芳が秀でているので当然の結果でしょう。
さて、雰囲気が変わって最後の展示コーナーは刀剣の展示です。刀は特殊な芸術品です。鑑賞品であり、道具であり、権威の象徴でもあります。不勉強ですので、見た目の印象だけで2点ご紹介。
S-2 刀 無銘 伝来国光
観ていて飽きません。吸い込まれるような感覚があります。身幅は広く少し長め、反りはきつくなく、刃文はまっすぐです。好みとしてはシンプルで実際に切れそうなもの、使えそうなものが好きです。用の美を極めているということでしょうか。だいたい鎌倉時代のものが多いです。
京の来派、来国光の刀。(但し「伝」。)以下、解説引用します。
「来派は優美な太刀姿、精美な小板目の鍛え、小沸のよくついた端正な直刃を特徴としているが、来国光はそれに加え、姿に力強さが加わり、刃文は沸が強めとなっている。」
S-4 短刀 銘 大和尻懸則長四十八作之 文保三年己未三月十日
短刀は刺しやすそうもの、細身で重くなく扱いやすいのが好みです。機能重視です。(使う予定はありませんが。)
大和(奈良県)の尻懸派の短刀。文永8年(1271)の生まれです。以下、解説を引用します。
「板目の鍛え、沸出来の細直刃がほつれた刃文は大和物の特徴がよく現れている。」
知れば知るほど面白い展覧会でした。アニメやマンガの展覧会と同じくファンならもっと楽しめるでしょう。
私はあまり詳しくないですからこういう展覧会があるとまとめて学べるので、他のヒーローや絵師を取り上げてまた同様の企画展を開催してほしいです。
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