Chim↑Pom展:ハッピースプリング

森美術館

2022年3月12日(土)


 

 

面白かった。

 

Chim↑Pom(チンポム)はアーティスト・コレクティブ、アーティストが集まって活動している、つまりグループです。2005年に東京で結成、今年17年目を迎えます。メンバーは、卯城竜太・林靖高・エリイ・岡田将孝・稲岡求・水野俊紀。

 

作品は主にプロジェクト形式で突飛な行動やお祭り騒ぎ、品のない過激なパフォーマンスなどもあります。映像とパネルと制作物の一部を並べるだけの展示ではおとなしく、なかなか持ち味のダイナミズムが伝わらない。そこでChim↑Pomは思い切った展示空間を作り出しました。

 

なんと二階建て構造。建築用の仮設資材を森美術館のフロア全体に組んで地上と地下を作ってしまいました。

 

こちらが地下。

 

こちらは地上。床はなんとアスファルトで整地しています。

上がったり下がったりして見て行きます。
この土木工事のような空間は作品のひとつ
 

スクラップ&ビルド

Sukurappu ando Birudo

 

を彷彿とさせます。2016年に始まったプロジェクト。解体が決まっていた新宿の歌舞伎町商店街振興組合ビルで展覧会やイベントを開催、最後は展覧会ごとビルを壊してしまう。その瓦礫、スクラップを高円寺のキタコレビルに場所を移し個展を開催と、破壊と創造を繰り返します。

 

都内各地から集められた廃材と土による土壌モノリス

「2020年東京オリンピック・パラリンピックに向け高度成長期の価値観のまま、都市の解体と開発を進める21世紀の日本の価値観に疑問を提示します。」


という説明ですが、どうでしょうか?ゴチャゴチャしていてよくわからない、そう言われれば、そうかもな。というのが正直な感想です。現実の社会は複雑でそれを主題として掲げることは難しい。

 

これに対してとてもキャッチーで、Chim ↑Pomを語る上で欠かせない作品が2008年10月21日発表の 

 

ヒロシマの空をピカッとさせる

 

私が初めてチンポムを知ったのがこの作品、いや、事件というべきか。飛行機をチャーターして原爆ドームの上空にカタカナで「ピカ」と描きました。

 

広島で予定していた個展はこの作品を皮切りに立ち上げるはずが、原爆の被災者団体や新聞でのネガティブな反響が大きく最終的に開催を自粛。この件で、私はChim↑Pomは目立ちたがりのお騒がせアーティスト、「品のない日本版Banksy」という印象を持ちました。

 

その後のことを知らなかったのですが、被災者団体と継続的に話し合いを持ち、有識者の意見も集めながら本の出版や新作の制作もして各地で展覧会を開催。海外の展覧会にも出品。ついに2013年に広島で個展を開催しています。

 

風化していく歴史と今を生きる我々との距離感を顕在化させたこの作品は、被災者の理解はなかなかな得られない一方で、一般人のヒロシマへの関心を繋ぎ止めるという役割を果たし、間違いなくChim↑Pomの代表作となりました。

 

Pavilion 

 

引き下がることなく活動し続ける所が根性あります。安易な気持ちではないので、ここまで粘り強く取り組むことができるのでしょう。

 

いかなるアートも自分と直接関わりがあるかないかによって感じ方は異なります。その意味で多くの日本人を当事者にした2011年の東日本大震災に関わる作品は特別なものです。

 

震災発生後、多くのアーティストが震災に関わる積極的な活動を始めました。作品のテーマ、表現の変化にのみならず、現地を訪れプロジェクトやイベント、ワークショップを実施し、復興支援、ボランティアに繋げています。その中でもChim↑Pomの発想と行動力は抜きん出ていて、被災地や警戒区域に入って多くの作品を制作します。

 

メンバーの一人、水野俊紀は2011年10月から2ヶ月間、福島第一原発の作業員として収束作業に従事。休憩時間の合間を狙って大破した3号機の前でセルフタイマーで撮影を行い作品にしました。

 

Red Card

 

私のような現代アートが好きな人間ですら、こんな場所でおふざけが過ぎないか?という気持ちがチラッと心をよぎったぐらいですから、不愉快な思いをしている方もいるでしょう。

 

手にしたレッドカードには「FAIR PLAY PLEASE! 」と印字。「原発にレッドカード!」なんてよく使われる表現ですが、この作品の凄みはあの時期にあの現場に行っていたという事実です。時を作品に閉じ込めるというのは現代アートの重要なファクターです。Chim↑Pomが震災からまだ間もないを2011年5月に開催した展覧会のタイトルも「Real Times」展。同名の映像作品もあります。

 

「REAL TIMES」

2011年4月に警戒区域内で撮影。

福島第一原子力発電所から約700メートルの位置にある東京電力敷地内展望台まで立ち入り、パフォーマンスを行います。

白い大きな布にスプレーで真っ赤な円を描き日の丸の旗を作成、続けて周りに扇形の図形を3つ描き足し原子力マークに変えて、展望台のてっぺんで原発を背景に旗を掲げてみせるというものです。


広島の時と違い、彼らも命をはっている当事者であり、徹底的に行動を作品化していてChim↑Pomらしいです。

 

メンバーの紅一点、エリイの活躍も派手で面白いです。

 

アイムボカン

イギリスのダイアナ妃のような真のセレブたちが行うボランティアを自分もしてみたい、いや、する!と決断しカンボジアへ。地雷撤去の活動、地雷と共に爆破したエリイの私物を作品としてチャリティーオークションを行い現地に寄付と、世界トップのセレブに引けを取らない行動力で行ったアート兼チャリティーです。

 

 

現地の方々に囲まれて得意な顔でスピーチするエリイの映像も笑えます。

当事者から見たらふざけていて腹立たしいでしようが、この作品は好きです。先程は気に入らないとしながら、今度は笑って見ている、私も自分勝手で最低ですよね。

 

いいんです。人間なんてそんな生き物です。感情や感覚を無かったものにしたいならアートなど見る意味がない。ありのままを知った上で、どう生きたいか、どう変わりたいか、考えればいい。見ていてただ心が癒されるというアートとはまったく次元が違います。

 

他にもたくさんの展示があるのですが、キリがないのでこの辺で終わります。興味が湧いたら是非見に行ってください。一筋縄ではいきませんが、今を生きるアートです。


くり返しになりますが、面白いですよ。


 

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