ドレスデン国立古典絵画館所蔵

「フェルメールと17世紀オランダ絵画展 」 

東京都美術館

2022年2月12日(土)



コロナで若干会期が遅れたものの無事に開催されて何よりです。

 

目玉は修復されてから海外へ持ち出されるのは日本が初めてとなるのフェルメール「窓辺で手紙を読む女」ですが、一緒に17世紀オランダ絵画の黄金時代の名品が来ています。最初はそこから取り上げていきましょう。

 

 

24  緑のカーテンから顔を出す女

  バルトロメウス・ファン・デル・ヘルスト

特定の人物ではなく架空の人物のバストアップを描いたものをトローニーと呼びます。

このトローニーはオバさんがモデルですが、とても丁寧に描かれています。首の周りは弛んでいますが、青く輝く瞳、左手はうっすら血管の浮き出た綺麗な肌。

左上によけた緑のカーテンの輝きと細かい金の刺繍、まとった赤い布の質感、きらりと光る耳飾り、胸元のチラリと見える小さな青い花。

好きな絵ではないのですが細部がしっかりしていて見入ってしまいました。技術的な試行錯誤のための作品に見えます。

 

23  自画像

  ワルラン・ヴァイヤン

デッサンが正確で滑らかな細密描写。

黒い衣服のサテンの光沢。顔の肌のつやの良さをとなめらかさ。柔らかくくせのある髪とイケメン自画像です。

 

21 灰色の上着を着た男の肖像

   フランス・ハルス

22 黒い上着を着た男の肖像

   フランス・ハルス

とても小さな作品。20センチ四方くらいの男の肖像2点。似たようなバストアップの構図。出来かけのような筆の跡をそのまま残したラフなタッチ。わざわざ解説が付けてあるのは、後の印象派の画家たちが参考にした作品と云われているからだそうです。 

 

25  若き日のサスキア

     レンブラント・ファン・レイン

早い筆使いで描かれているがリアルに見える不思議さ。水色の服の肩に宝石などが輝く。

サスキアのニヤリとした表情があまり可愛らしくないが、飾らない表情が対象と描き手の距離の近さを感じさせる。カメラで瞬間的に切り抜いたのではなく、肉眼と素手で再現している所に高いデッサン力と、完成のイメージにブレがないのが垣間見える。


64 放蕩息子の譬えに扮するレンブラントとサスキアの肖像

  (レンブラントの原画に基づく)

  アルバート・ヘンリー・ペイン

複製版画のコーナーが充実してます。モノクロですが細密で再現度が凄い。 スティール・エングレーヴィングという技法です。画家であり、版画家であり、出版社の社長でもあるアルバート・ヘンリー・ペインが制作した名作絵画の複製本からの展示です。

放蕩息子の画題を描くためのモデルに扮したサスキアとレンブラントがポーズをとりおどける姿を捉えた、いわゆるメイキングシーンを絵にしたものです。二人の仲の良さが伝わってきます。レンブラントがラブラブな絵を描くのはまだわかるとしてもこれをアルバート・ヘンリー・ペインが名画として選んだのが面白いです。そして私も選んでしまいました。作り手が楽しんで描く絵は魅力に溢れていますよね。

 

2  歯医者

  ヘラルト・ダウ

レンブラントの弟子です。トロンプ・ルイユ(だまし絵)のテクニックを使うのが得意だそうです。髪の長い老いた歯医者とヒーヒー言ってる患者の手前に置かれた金色の洗面器が前に飛び出して見えます。今でいうVRな絵画です。


17 火のそばでタバコを吸う男

    ハブリエル・メツー

暗闇に光、明暗の描写が巧み。演劇的な効果ではなく写実性を重視して描いている。タバコを吸う男の周りの人物の顔を照らす明かりが距離感に比例して段階的に暗く落ちている。夜というと、ラ・トゥールとか思い出すけど、それよりは後の画家らしい。

  

渋い作品ばかり取り上げました。

さて、それではいよいよ今回の目玉の一点です。


71 窓辺で手紙を読む女

    ヨハネス・フェルメール

修復前と修復後の違いは展覧会のチラシがわかりやすいです。


<修復前>


<修復後>


展示室には始めに修復の記録の丁寧な解説がありますが、すっ飛ばしてまず実物を見ました。色彩が豊かで綺麗。全く違う作品になって蘇りました。この修復は正解だったと思います。

修復前は汚れもあったからでしょうが背後の壁もいい感じに暗くなっていて、日本の茶室のような侘びたライティングでした。修復後は全体に明るく華やかになり解像度が高くなったようにも見えます。壁のキューピッドの絵も違和感なく調和していると思いました。

矢を持ち仮面を踏むキューピッドの寓意は「誠実な愛は嘘や偽善に打ち勝つ」というもの。ですから女性の読んでいるのは恋文であり、離れたところにいる恋人への愛を信じ貫く姿を描いたと見るのが王道の解釈でしょう。

   修復前の壁にキューピッドがいない方が、手紙の内容をより自由に想像できて立場の違う人々の色々な見方を受け止めることができる絵だったとは思います。それでも十分名作だと思っていましたが、修復後の方が力強いメッセージを感じました。

 フェルメールの他の作品にも背後の壁に絵があるものもありますが寓意が読みにくく、その分神秘的な雰囲気が醸し出されて魅力となっていたりします。比べてこちらはわかりやすく作者の意思を感じます。このようなメッセージ性の強いフェルメールもあっていいと思いました。


 近年フェルメールが次々とやって来てインフレを起こしている感じもしましたが、今回はじっくり1点掘り下げて展示しています。修復のプロセスは映像でも紹介されていますので、この機会に是非ご覧になってはいかがでしょうか。

 

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