ユージーン・スタジオ 新しい海
EUGENE STUDIO After the rainbow
東京都現代美術館
2022年2月11日(金)
ユージーン・スタジオは寒川裕人(Eugene Kangawa、1989年アメリカ生まれ)による日本を拠点とするアートスタジオです。
どうでもいいことですが、同時開催の「久保田成子展」「クリスチャン・マークレー」と比べてお洒落な女子の比率が高い気がしました。
入ってすぐ感じたのは展示室が明るい。普通は全体の照明を落として作品にスポットで光をあてることが多い。暗いと緊張感がでてきますが、明るいとリラックスした気分になりますね。この展覧会はシアター形式の映像作品等を除くと、自然光に近い全館照明で作品を見せていました。
1-4 <ホワイトペインティング>シリーズ
真っ白な四角いカンヴァスが展示されている。
いくら目をこらしてもなにも描かれていない。
作品のタイトルは多くの人の名前を列記している。
これは世界中の都市で街ゆく人に声をかけて
カンヴァスにキスをしてもらった作品。タイトルはキスした人々の名前。
何も見えないのに遠くで行われたキスの温もりを想像の中で感じることができる。
制作プロセスの説明とセットで観る人の心の中で完成する作品。
5 海庭
地下の展示スペース一面に白い砂を敷き詰め水を張って、鏡で囲んだ作品。
どこか南の島の浜辺の景色を想起させる。
かつては海だったこの美術館の館内で最も低い位置にある展示スペースに作られた。
人工的でもあり、自然な雰囲気もあり、解放感もあり、不思議な印象。
タイトルの中の「海」という言葉は展覧会のタイトル「新しい海」ともつながっている。
広大な海を表現しつつも、展示室の中に庭のように存在している。
境界のない広大さ、仕切られた空間の狭さという対立する概念をとりこむ新しい海、「海庭」である。
24 想像#1 man
予約制で観ることはできなかったのですが、触れておきたい作品です。この作品は照明のない真っ暗な部屋に展示されています。観る人が入った時も真っ暗のままで見ることはできません。
展示されているのは暗闇の中で制作した人の彫刻です。制作者も触れたことはあっても見たことはありません。今後も決して公開はしないそうです。環境と情報から彫刻の存在を感じその人の形を想像します。見るそれぞれの形が生まれつつ唯一つの形が存在する。
<ホワイトペインティング>シリーズもそうでしたが実在するけれども見えないもの見せるという構造です。
最終的には観るものの想像力、創造力こそ作品を完成させる力なのです。
28-31 私は存在するだけで光と影がある
見た目は翠色のきれいなグラデーションのグラフィック作品。
一枚の紙に翠色の水性染料を均一に塗ってから、紙を折り曲げ光をあてて褪色させて作っているそうです。光に当てるという絵画的でない作業を想像するとこの作品は何かの工作のような造形物に思えてきます。
描くという工程とは別の制作工程を組み込んで、その情報もセットで作品としているのは前述のものと同じです。
32 善悪の荒野
スタンリー・キューブリックのSF映画「2001年宇宙の旅」の1シーンの舞台セットを原寸大で再現し、破壊して燃やした作品。
私はこの映画が好きでこのセットのシーンもよく覚えています。モノリスとの邂逅を経て年老いた人間がベットで眠りについているシーンのセットです。
破壊されたことでここでは時が止まっています。50年前に制作されたこの名作映画の何を作者は止めたかったのでしょうか。朽ち果てた遺跡のようなモノトーンのオブジェは往時の栄華とその永遠の喪失を示すようにも見えます。
宇宙のスケールで描かれた人類の進化という世界観を打破し、21世紀を生きる我々にとっての人類の未来のあり様を問いたかったのかもしれません。
ユージーンスタジオの作品はどれも見栄えがよく格好がいいです。現代アートの黎明期にアーティストが暴れまくっていた時期の作品はゴミみたいな見た目のものもありましたが、21世紀の現代アーティストはTPOをわきまえているというか、洗練された表現をします。
見るものの見方、意識を動かす手法も確立していて見やすいです。私はもう少し無愛想な方が余白も多くアートな感じがしますが。
コロナ禍にありつつもクオリティを落とさない作品を作る発想も素晴らしく次の作品が楽しみなアーティストです。
↓ランキング参加中!押していただけると嬉しいです!