池内晶子 あるいは、地のちからをあつめて

府中市美術館

2022年1月15日(土)



始めにディスりから入っていいですか。


作品が見えない。




池内晶子は糸を用いるアーティスト。


糸は細過ぎて作品がよく見えない。


展覧会のパネルのようにホントに真っ白な部屋であれば見えたのでしょうが、府中市美術館の展示室があまり白くなかったのと、私の視力が低いのもあってよく見えなかった。


糸ってホントに細いんですよ。(くどい。)


普通は縦糸と横糸を織り上げて

織物や布にするものですが

糸のまま作品にしているわけです。


立体芸術の王道の彫刻の素材は石で

千年を生き抜く堅牢さが特徴です。

それに対して糸の造形は

柔らかさを通り越しています。


でも

この見えないくらい細い糸だからこそできる

繊細な造形もあります。


・企画展示室1

Knotted Thread-red-φ1.4cm-720cm

(ノッティドスレッド・レッド・直径1.4センチか、直径720センチ)


赤い糸が網、蜘蛛の巣のように編み込まれ漏斗のような逆円錐形の筒状の造形物となり、展示室の中央に浮いていて、その真下の床を中心として円形の模様が描かれています。


物理学の講義の黒板(いつの時代だ?)に描かれた重力場の図、ブラックホールのような形とでも言いましょうか。


実際、糸の他にはなにも使わないので

重力と張力が造形の大きな要素となります。


しかし重力だけが

作用するわけではありません。


湿度、温度の変化による糸の伸び縮みから

形状に変化が生じることもあれば
糸が切れることもあるそうです。


展示室の空間にどう配置するかは現場で作りながら決めていて、室内の形状だけではなくより大きな方位、地磁気の南北に向きを合わせてあります。


室内は無風状態ですが、もし空気が動けば糸はゆらゆら揺らぎ、即かたちに反映されます。


つまりこの造形は、外界、環境のちからそのものを直接に「見える化」しているわけです。(展覧会のタイトル通りですね。)


かつてはもう少し太い黒い糸を用いていたことも

あったそうです。


しかし色々試すうちに絹糸にたどり着いた。

人間の皮膚の組成と近く滑らかな独特なテクスチャ。


糸の色も制作に影響するらしく

色が良くないといつまでも制作が始まらない。


表現メディアはアーティストにとって

いかに重要かがわかります。


この糸を結んで結び目を作っている作品もあります。


私もたまに服のボタンをつけたりするのでわかりますが、

結び目つくると確かに糸の表情は変わります。


でもこれも遠くからだとよく見えない。


凄く面白い構造のアートですし

もっと見えればもっと伝わるのにと思います。


もっとも見えないところがいい、

見えてしまえば興醒めというスタンスなのかもしれません。


・エントランスロビー

Knotted Thread-white-22knots-north-south

(ノッティドスレッド・白・22の結び目・北南)


エスカレーターの上から1階に向かい(写真右上から左下へ)1本の白い糸が南北に張ってあります。
糸には22の結び目があり、府中市美術館が開館してからの年数に1年を加えた数です。


どうです?

面白い作品でしょう。


見ての通り、写真では伝えきれませんので

府中市美術館に行って、

ご自身の目でお確かめ頂ければと思います。


 

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