深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」
上野の森美術館
2022年1月4日(火)
深堀隆介は金魚を描くアーティスト。
金魚は可愛らしくキャッチーなのでお土産、小物、キャラクターグッズと見えなくもない。これはアートと呼べるのだろうか。
最初に展示している枡の中に金魚が浮かぶ「金魚酒」シリーズを見ると深堀隆介の進化がよくわかる。
水を模した透明なアクリルに描いた金魚。制作年順に展示してあり、これが次第にリアルになっていく。2003年に描いた金魚は平べったくいかにも絵に見える。それが2010年頃になると立体感が出てきてもう実物の金魚にしか見えない。技術がここまで成熟してこの金魚は別次元のもの、アートになった。
アート表現が多様化した今日でも絵画というフォーマット以外の表現がアート作品として認識されるのには、越えなければならない境界線がある。
越え方、越えるべき境界線は様々だが、深堀隆介は「2.5D Painting (滅積層絵画)」と呼ぶ技法によってそれを成し遂げた。具体的には先に述べた金魚酒シリーズだ。
これまで絵画はカンヴァスという支持体の上に描くものだった。本質的にはどんな絵画も1枚の板に過ぎない。我々は絵画を鑑賞する時、この板のことは忘れて鑑賞するよう訓練している。
ところがこの技法では「平面の支持体」が消えてしまい絵だけが実在する。しかも平面なのに立体に見える。だから二次元と三次元の間、2.5次元。
技法が確立し写実性を獲得して、金魚、水のリアリティが実物レベルになったことで、完成した作品は単なる視覚的な驚き以上のメッセージを伝えることができるようになった。
古びた日用品、茶碗、弁当箱、タライ、匙、カップなどに描かれた水に浮かぶ金魚は、生きものが考えもつかない狭い所に浮かんでいる状況に対する驚きがある一方で、そもそも観賞魚なので見ていて飽きが来ないという側面もある。
懐かしさがある古びたものと、生き物という今そのもの、そしてその存在する環境の危うさ。見た目の可愛いらしさの奥に、深い問いかけが見えてくる。
深堀隆介はこの技法だけの表現者ではない。ほかにも多様な表現にチャレンジをしている。
絵画や屏風では、四角いカンヴァスの形を変えたり画面からはみ出したり二次元からの脱却という方向で制作されているものが多い。
生計を立てるという直接的な理由はあるものの「金魚Tシャツ」を制作し原宿のショップで売ったり、1枚500円で墨と筆で描く「金魚書」を売ったり、北海道の熊の一刀彫に金魚を咥えさせた「金魚すくい」、段ボール箱に金魚を描く「段ボール水槽」、など様々な試行錯誤をしている。
私が面白いと思ったのは金魚の鱗だけを拡大して、様々なイメージの配色を施して描いたシリーズ。具象的なテクスチャをもちつつ、抽象画とも見える可能性を感じる表現だ。
この他に更に映像作品や、インスタレーションもある。
エンタメ感もありながら、本格的なアートとしても成立する、今後の展開がとても楽しみなアーティストだ。
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