ゴッホ展 響きあう魂 ヘレーネとフィンセント

東京都美術館

2021年9月20日(月)


 

ゴッホ展、というより、クレラー=ミュラー美術館のゴッホ作品を中心としたコレクション展です。

 

オランダの実業家の妻、へレーネ・クレラー=ミュラーが1908年から収集を始めた印象派を中心とした近代絵画のコレクション。ゴッホ作品は

世界で2番目の収蔵品点数を誇ります。(1番目はファン・ゴッホ美術館。)

 

展示前半のゴッホ以外の近代絵画は良品が多く、こちらもかなりオススメです。

 

7  カフェにて

 ピエール=オーギュストルノワール

小品ですがパリのカフェで語らう人々の姿をスナップショットで捉えた洒落た一点。着衣の女性も素敵です。

 

8  2月、日の出、バザンクール

 カミーユ・ピサロ

補色の効いたファンシーな配色の農村の風景画。ずっと観ていて飽きが来ない色の粒たち。日の出の煌めきが想像できます。

 

9  ポール=アン=ベッサンの日曜日

 ジョルジュ・スーラ

桟橋からの波止場の風景。左手にヨット。右手に建物。中央は海と空。描きたかったのはおそらく開放的な気持ちの空間の良い広がり。

 

10  ポルトリューの灯台、作品183

 ポール・シニャック

中央に灯台を配置した風景画。真面目に細かな点描をしています。(シニャックの点描はだんだんドットが大きくなってくる。)

 

11  版画愛好家(アーヒディウスティメルマン博士)

  ヤン・トーロッブ

点描にしては上手い人物画。点描はどうしても装飾的で動きが表現しにくいので人が生き生きしないことが多いですが、これはレベルが高い。

 

14  キュクロプス

  オディロン・ルドン

へレーネは始めルドンは好きではなかったそうですが、次第にその精神性を評価して収集するようになり、象徴主義ではモローもコレクションしています。ギリシャ神話の単眼の巨人キュクロプスが水辺の妖精ガラティアをのぞき見ているこの一点、ルドン展だったらこの程度の扱いではなかったでしょう。

最近、山田五郎のYouTube でこの作品を取り上げていました。展覧会に合わせていたのなら中々あざとい。

 

19  グリッドのあるコンポジション5:菱形、色彩のコンポジション

 ピート・モンドリアン

へレーネはモンドリアンも集めているそうです。正方形のカンヴァスを菱形に向け、水平線と垂直線で区切った代表的な作例。赤、白、青が色褪せた感じなのは最初からこうだったのか退色したのかわかりませんが味があっていいです。モンドリアンの抽象画はタイルみたいなイメージですが、現物は塗りむらがあり筆の跡も残っていて少し雑に見えるほどです。

 

こんな感じで地下1階はゴッホ以外。1階からいよいよゴッホの作品となります。

 

最初は初期のデッサンからです。この頃のゴッホはあまり好きではないです。ミレーの影響か苦労していそうな働く農民の姿をせっせと描いています。困った人を助けたいマン、やってます。

 

もっともこの展示があるから、パリに行って最先端の若手画家に触れて大きく変化したのがよくわかります。浮世絵を彷彿とさせる草の絵、ルドンぽい鮮やかな花瓶の花(ルドンとは接点無さそうですが)、点描ぽいレストランの絵、など。作品が色彩を帯びてきます。

 

そしてパリから離れ独自の画風が確立していきます。

 

72  黄色い家(通り)

今回の展示会では建物の黄色の使い方が最も我々がイメージするゴッホのそれ。ただし、ファン・ゴッホ美術館からの特別出品。

 

58  種まく人

さりげなく並んでいましたがもう少し目立っても良いのではという一点。大きな太陽と黄色い空、青っぽい畑、そしてミレーの作品から連れてきた種まく人。コントラストの強烈な一枚。

 

60  サン=レミの療養院の庭

とても落ち着いた感じの庭の景色。濃い緑が多めに使われていてゴッホらしくない一点。実験的な作品か或いは精神状態が安定してからなのか。

 

67   夜のプロヴァンスの田舎道

今回の目玉。展覧会のポスターで「<糸杉>の傑作、来日。」というコピーで紹介されていますがどうでしょう?私はタイトルの通り、田舎道がテーマだなと思いました。確かに糸杉は燃え上がるような筆致ではあるものの糸杉の周りの事物も同じ描き方で、かつ全体のバランスが良い。ゴッホにしては落ち着いた仕上がり。手前の道を歩く人も後方の馬車も存在感があり、月明かりに見える田舎道の様子が丁寧に描かれています。いずれにしても傑作だと思います。

 

へレーネ・クレラー=ミュラーのコレクションは全体に上品な雰囲気の作品が多い気がします。ゴッホ以外の作品、新印象主義、象徴主義、抽象主義と幅広く集めていて先見の明がありつつも、へレーネの価値観が感じられプライベートコレクションらしい。

 

少し気が早いですが芸術の秋に相応しい、なかなか良い展覧会でした。