三菱創業150周年記念 三菱の至宝展
三菱一号館美術館
2021年7月3日(土)
三菱一号館美術館の所蔵の展覧会ではなく、三菱ゆかりの静嘉堂、東洋文庫所蔵の至宝を展示しています。日本を含むアジアの文献のコレクションと、日本・中国を中心にした美術工芸品のコレクションです。
いつもの三菱一号館美術館のような近代西洋美術展を期待して行くと違いますからそこは要注意です。展示品も漢字が多くふりがな無しでは読めないものも多いです。しかし国宝12点、さらに重要文化財もたくさんあるので、日本人なら必見です。気合いを入れて教養を広げるチャレンジをしましょう。
展示は三菱創業者一族、岩崎家の初代(岩崎彌太郎)から第四代(彌之助、久彌、小彌太)の社長まで四つに分けてコレクション収集の歴史と共に展示しています。若い頃から高度な教育を受け海外の名門大学に留学した二代目〜四代目の文化財に対する意識は高く、現代の経営者も見習ってほしいと思います。
ここからは気にいった作品について記します。
3.唐物茄子茶入 付藻茄子(つくもなす)
大名物です。来歴が派手過ぎて目が眩みます。足利義満、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、など誰もが知る歴史上の人物を経て、岩崎彌之助の手に渡りました。彌之助が美術品を集めるきっかけになった品だそうです。この茶入は誰でも気に入るのではないでしょうか。大名物といっても茶入は小さな物なので、愛嬌のあるフォルムと味のある釉薬の模様という点は共通しています。(焼物はみんなそうだろうと突っ込まれそうですが。)ただこの付藻茄子、焼物ではありません。大坂夏の陣で破損したものを徳川家康の命で修復した超絶技巧の全面漆細工です。黒い地に茶色の模様は釉薬にしか見えず、漆細工と言われても全然わかりません。この時代にもう凄腕の職人がいました。名を藤重藤元、藤巌父子、この修復で付藻茄子を家康より賜っています。
10. 古備前高綱
太刀 銘 高綱 号 滝川高綱
附 朱塗鞘打刀拵
刀剣は好きですが鑑賞できるほどの目利きではないです。高綱の刃紋はあっさりしていて、反りもキツくなく整った形です。棒樋(ぼうひ、鎬の部分にある溝)があります。鎌倉時代のもので重要文化財です。拵は桃山時代。全面華やかな朱塗一色の鞘は派手なものが好まれる乱世を反映したものでしょうか。
11. 手掻包永(てがいかねなが)
太刀 銘 包永
附 菊桐紋蒔絵鞘糸巻太刀拵
太刀は鎌倉時代、刃紋はシンプルで、中央の反りが少しキツめです。七百年以上前に作られたとは思えない状態の良さ。刀身はキラリと輝いています。刀剣の作者の名前は変わっていて読めないことが多いですが、大和国を代表する一派、手掻派(てがいは)の初代包永(かねなが)です。
拵は江戸時代。三百年を隔てた職人のコラボレーション。金の鞘に菊の紋様と桐の紋様が交互に並んでいて、金色の派手な帯を柄と鞘を巻き付けています。江戸時代、徳川将軍家の宝になった刀剣と同様は贅沢な拵です。
36.国宝 俵屋宗達 源氏物語関屋澪標図屏風
六曲一双。それぞれ源氏物語の「澪標」「関屋」の場面を描いていて前期の展示は「澪標」。光源氏と明石の御方のすれ違いの場面。構図は面白いけど国宝とは。メインの登場人物二人は牛車と船の中で見えない。左側の神社の極端に丸く迫り上がる橋、陸地と海辺を分ける砂浜の平面的な処理、やはり平べったい右側の海上の船。力の抜き方とデフォルメが絶妙で、その加減が宗達らしい。
37. 橋本雅邦 龍虎図屏風
この展覧会で最も美術作品らしい一点。来歴や時代背景、引用元などのインプット無しで、右脳で観ることができるので、この作品を観て一息つけました。
左が竹林の虎が二頭、右が大波の中から躍動する龍が二体。激しい風雨の空間づくりと描写か現代的。虎が迫力があって素晴らしい。発表当時は腰抜けの虎と酷評された。腰が下がっているのが原因かもしれない。でも昔の猫みたいな残念な虎よりこちらの方がカッコいい。近代日本画で初めての重要文化財です。
41. 和漢朗詠抄 大田切
知識は無くとも、いいものはいいって分かるもんです。漢詩、漢文、和歌を集めた詩文集の書写版。何か凄いと思ったら国宝でした。平安時代のものなので色あせていて文字以外は見にくいが、地である料紙の青色が何とも言えない美しさで、草の紋様が全面に敷かれ、さらに繊細な細い線で描かれた草木が見事。その上にキチンとした書体で、詩文が書写されている。完成した当時の煌びやかなイメージが妄想できる手間と時間をかけた名品。
45. 兼好/撰 徒然草
私は書の素養がないので完全に好き嫌いで判断します。吉田兼好の徒然草の書写(釈正徹)です。平仮名がとても美しい。重要文化財。
突然ですが、「昭和北野大茶湯」って聞いたことがありますか?
「北野大茶湯(きたのおおちゃのゆ)」は豊臣秀吉が天正15年10月1日(1587年11月1日)に北野天満宮において開催した茶会の一大イベント、現代に例えると音楽フェスのようなものです。この350年記念として昭和11年(1936年)に行ったのが「昭和北野大茶湯(しょうわきたのおおちゃのゆ)」。前者は時の最高権力者が行ったもの、対して後者は茶の湯の継承者たちが行ったものなので世間に知られていないようですが、規模は大変なもので全国の流派が一堂に会し歴史的な名品を持ち寄ったようです。
三菱も名品を携えて参加しており、その時に用いた品々(以下※)をここでまとめて展示しています。 利休が見立てたもの、所有していたもの、使用していたものばかりです。
79.無準師範 禅院牌字断簡「湯」※
80.龍泉窯 青磁鯱耳亜花入 ※
81.唐物茄子茶入 利休物相(木葉猿茄子)※
82.伝千利休 象牙茶杓
83.三島芋頭水差 ※
84.御所丸茶碗 黒刷毛 ※
85.井戸茶碗 越後
名前だけではイメージがわかないでしょう。79.はその名の通り「湯」一文字の掛軸です。南宋のもので、茶の湯にはピッタリです。80.の青磁の花入は鯱耳の飾りの部分が茶色でいい感じにエージングしています。82.は利休が作ったと伝わる真っ白な象牙の茶杓。83.は白くて芋のように丸く大振りでザラっとしたテクスチャーの水差し。84.は濃い灰色の茶碗で白く抜けたところがあり釉薬がグレーの織部という感じ。85.は昭和の大茶湯には出番はなかったそうですが初めは白だったが時を経ていい感じの淡い朱色に変化した逸品です。
88. 曜変天目(稲葉天目)
世界に3つしかないという茶碗。中国福建省で作られた唐物茶碗。漆黒の釉薬の中に虹色に輝く銀河の集まりのような紋様が唯一無二。「曜変」とは「窯変」(焼物を窯の中で焼いた時、炎の具合で色や模様の変化が起きること。)からきたもので、後世になって「星」「輝く」を意味する「曜」の字が当てられるようになったそうです。手にとれば飽きずにいつまでも観ていられるでしょう。
三菱の至宝展は、前期・後期に分かれています。かなり沢山の展示品が入れ替わるので、後期も必ず観に行くつもりです。