MOTアニュアル2020   透明な力たち

東京都現代美術館
2021年1月11日(月)
 
 
MOTアニュアル2020では5組の日本の現代アーティスト(片岡純也+岩竹理恵、清水陽子、Goh Uozumi、中島佑太、久保ガエタン)の作品が展示されています。その中で、清水陽子について取り上げます。
 
アートの技術の開発者、表現メディアの研究者とでも言いましょうか。
 
生物化学の知見に基づいて作られた作品・研究が実験室のような雰囲気で、シンプルながらもカラフルでお洒落な感じで展示されています。
 
展示内容はほぼ6つ。
 
・PHOTOSYNTHEGRAPH
・GRAVITROPISM
・CYCLES OF LIFE
・BIOMATERIALS RESEARCH 
・ANATOMY OF FLORA
・SPACE ART DNA CAPSULE
 
ひとつずつ書いていきますが
詳しくは清水陽子の公式サイトをご覧下さい。
 
・PHOTOSYNTHEGRAPH
光合成と写真の原理を組み合わせて、画像や文字を植物の葉にプリントする作品。単に表面に印刷するのではなく生物のメカニズムを利用してカンヴァスとしている。葉にフェルメールやモナリザをプリントしているのは絵画芸術に劣らない表現メディアとしての可能性を示唆している。
 
・GRAVITROPISM
植物の種や球根を天地を逆さまに容器に植え、太陽の光を求めて重力に逆らい、U字型に成長させた作品。異形でありながら逞しく成長した植物の姿が秘められた生命の力を可視化している。
 
・CYCLES OF LIFE   (生命のサイクル)
円いシャーレの中に細胞、微生物を配置し成長させて文字や模様を作らせるインスタレーション作品。予め準備した色彩設計に、予測不可能な自然の生命力を組み合わせて作品を作るというのは、陶芸家が素焼きの器に釉薬をかけて後は窯の炎に任せたり、酒蔵の杜氏が仕込んだ酒の発酵を酵母に任すのに似ている。見た目に綺麗な作品を作るのは想像以上に手がかかりそうだ。
 
・BIOMATERIALS RESEARCH  
(アートとデザインのためのバイオマテリアル)
培養液を用いて生成するセルロースを使って様々な素材を研究開発している。シート状のもの、幾何学的な形状のもの、色彩も様々。有機的な素材なので、金属や化学製品と違い風合い、テクスチャーに味がある。作品としては薄いシートを振動板に活用したスピーカーが展示されていた。
 
・ANATOMY OF FLORA
かつて研究者たちが肉眼で見て素手で絵を描いていた植物種の観察記録を、現代の技術で作る。例えば、植物をカットしてその内部構造を高画質の画像で記録する。単なる科学的な観察や実験のための植物種の解剖画像の収集プロジェクトにならないのは、作り手にアートのセンス、絵心があるから。
 
・SPACE ART DNA CAPSULE
記録メディアとして最も堅固で長期間保存できる
ものは何か。一般的には石が頭に浮かぶが、アメリカのベンチャー、Twist Bioscience が開発したのはDNAの塩基配列を記録媒体とする技術。絵画であれば画像のデジタルデータをDNAの塩基配列に変換して記録が可能。直径0.5mmの点の中に1TB(テラバイト)の容量がある。この会社と協力して、アート作品を記録したDNAカプセルを
2022年には宇宙にロケットで打ち上げる予定。
 
(つづく)