The UKIYO-E 2020 日本三大浮世絵コレクション

東京都美術館

2020921()

The UKIYO-E 2020, 

Tokyo Metropolitan Art Museum

 

 

 

 

期待通り良かったです。

9月22日(火)に終了した   The UKIYO-E 2020。

 

日本三大浮世絵コレクション、太田記念美術館(東京・原宿)、日本浮世絵博物館(長野・松本)、平木浮世絵財団の優品が集められています。

 

浮世絵は保存状態が良いものを観るのが大切なので、平木浮世絵財団のコレクションが一番の期待です。初期の浮世絵はモヤッとしたものが多くて、私は見ていてよく眠くなります。この展覧会はどれも品質が高く、輪郭線の墨がピシッと決まっていて、人物の輪郭と服の模様が入り乱れて描かれているものが見定められないようなことはない。

 

今回は気に入った浮世絵を挙げていきます。作品名の後に○をつけているのは重要美術品です。重要美術品は墨の線がくっきりしていて、摺が綺麗で版ズレも無く、色も劣化していなくて鮮やかです。見ていて自然と目が止まるのは大体重要美術品です。

 

始めは初期の浮世絵から。色数が少なく、人物像が多いです。

 

40  西村重長「名月品川の座敷風景」

海辺にある座敷風景に遠近法を取り入れた浮世絵。消失点が複数あって奥の座敷の人物が小さくなってない。遠近法を使いこなせてないともいえるが、これはこれで成立していて面白い。

 

52  石川豊信「二代目瀬川吉次の石橋」

結構珍しい正面からの役者の全身像。木版画なのに、左手に持った赤いポンポンみたいなものがフワフワしているのが良い。

 

60  鳥居清満「四代目岩井半四郎 二代目坂東彦三郎」 ○

2人の役者の立ち姿。背景に、描きこみがなく、壁や空間の淡い色合の摺りが丁寧で綺麗。

 

 

それから錦絵が登場します。平木浮世絵財団の重要美術品は圧倒的でした。

 

63  鈴木春信 座舗八景 手拭かけ帰帆 ○

64  鈴木春信 座舗八景 台子の夜雨 ○

室内の人物画。ちょっとした日常の様子を描いた8点1組のうちの2点。ここに展示されている鈴木春信はどれも本当に素晴らしい。線の1本1本が崩れることもかすれることもなく、色もムラがなく綺麗。彫師、摺師が品質優先の仕事をしている感じ。あまりに違うのでググッたら当時から、販売点数の少ないとんでもない高額商品だったらしい。

 

 

そして美人画、役者絵です。私は美人画なら歌麿がイチオシですね。

 

170  鳥居清長 坎々楼由良之助遊戯 ○

三枚続き。背景の建物に遠近法が効果的に使われている。この頃には誰もが使いこなし始めているらしい。前面に由良之助と女たち等たくさんの人々がいるにも関わらず、要素がゴチャゴチャして見えないのは、状態がいいことが大きい。

 

177  喜多川歌麿「青楼仁和嘉女芸者部 たま村屋おひで 富本豊志名」

これは初期の作品で歌麿らしくないが、写実的で人体のプロポーションもリアルな人間に近く画力の高さが窺える。

 

186  喜多川歌麿 紅つけ ○

紅をさす筆をあてた唇に神経を集中した女の表情、仕草をとらえた作品。視線の向きや半開きの口をよく観察しているし、この瞬間を絵にする着眼点が歌麿らしい。喜多川歌麿は女を描くのが上手い。流行りの着物を着て流行りの髪型にした美人を描くだけでなく、日常の仕草を描きとめる目が秀逸。

 

 

それから北斎を一点。

 

283  葛飾北斎 うつぼ猿 ○

狂言の演目の舞台のワンシーン。背景の舞台が遠近法が効いていて立体感があり、役者は写実的で動きを感じる。こうやって他の浮世絵と並べると

型にはまらない画力の高さが際立つ。

 

 

そして自然描写と物語。やはり北斎と広重が目に止まります。

 

355  葛飾北斎「富嶽三十六景 山下白雨」

浮世絵のスター選手、葛飾北斎「富嶽三十六景」は状態の良いものは少なかった。世界的な人気シリーズだから仕方がないか。「山下白雨」が最初に展示されていたのはこれが一番状態が良かったから。「神奈川沖浪裏」はあまり良くなかった。絵としての素晴らしさは言うまでもないが。

 

 

400  歌川広重「東海道五拾三次之内 庄野 白雨」 太田記念美術館

401  歌川広重「東海道五拾三次之内 庄野 白雨」 日本浮世絵博物館

歌川広重「東海道五拾三次」は「日本橋」「蒲原」「庄野」が良い状態だった。

「庄野」は2点、展示されていた。どちらも優品で雨の黒の濃さ、人物の色味が違う。摺によるニュアンスの違いが本物で確かめられる好企画。400(太田記念美術館蔵)は全体を覆う黒が濃く雨が主役、401(日本浮世絵博物館蔵)は黒はやや薄めで人物の色が明るく人物描写が主役になっている。

 

412  歌川広重 富士川雪景 ○

掛け軸に出来そうな格調高い山水画。深い渓谷の雪景色。富士川を舟が一艘ゆったりと下っている。寸法からして高額商品。

 

419  歌川広重 鯉

まず鯉の絵が伝統的な日本画のようでいい。そして鱗の模様といい、立体感のあるグラデーションといい、彫りと摺の技術が進歩が凄い。現代の印刷に負けない。

 

421  歌川広重「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」

美術の教科書で雨の描写の作例として必ず取り上げられる浮世絵。現代でも雨を描いた作品でこれを越えるものは無いのではないだろうか。

 

425  歌川広重「名所江戸百景 深川洲崎十万坪」

鷹の目線で眼下の景色を捉えた浮世絵。アイデアと構図が秀逸。飛行機もドローンもない時代にバーチャルな飛行体験ができるエンターテインメント作品。

 

 

446  歌川国芳 相馬の古内裏

三枚続き。状態はまあまあ。平将門の娘、瀧夜叉姫が妖術を使い巨大な骸骨の妖怪を呼び寄せている。骸骨が全体の画面の3分の2を占める特撮のような視覚体験ができる劇的な浮世絵。

  

密度の高い展覧会なので取り上げたい作品はまだまだありますがキリがないので、この辺で終わりにします。実際に展覧会を見ている流れをそのまま書いてみました。とりとめのない文章なので、第三者には面白くないでしょう。自分の振り返りとしては見た時の感覚を思い出しやすくいいのですが。

 

最後に展覧会サイトのウェブジェネレーターで作った謎の浮世絵をのせておきます。