キスマーク Myself

 ・それからはもう慌しく一日が過ぎた。

 ・8時30分、霊安室に安置された母の亡骸に焼香する。

 ・先生と看護師も焼香。

 ・その後、葬儀屋さんの車で葬祭場(宮崎メモリ-ドホール)にかみさんが向かう。

 ・私は自分の車に、母の荷物を満載して向かう。



 ・ホールでは仮控え室に遺体が安置される。

 ・丁寧に整えられた母の顔に、白布がかけてあるのは、なんか変な感じがしないわけではない。

 ・亡骸には白布がかけてあるのが普通だが、そこにあるのが母であることがなかなかピンとこない。



 ・火葬の段取り、役所への手続きなどはホールの方が取ってくださる。

 ・少し落ち着いたので、二男を迎えに自宅に帰る。

 ・やはり落ち込んでいる様子。

 ・東京の方の私の兄からと、宮崎のある方から電話があったという。

 ・母の亡骸と対面する二男。

 ・じっと見つめている。

 ・「たいへんだったんだね」とぽつり。



 ・お昼に帰ってくる長男を迎えに行くついでに、かみさんを病院まで乗せて帰る。

 ・「線香を絶やしたらいけないよ」と二男に言い置いて留守番を頼む。

 ・バスセンターに到着した長男を乗せてホールに戻る。

 ・母と対面した長男の目に涙。

 ・一昨日の夕方、母を見舞って「がんばれよ」と声をかけたばかりだったのに。

 ・あの時が、母と私たち家族の最後の時間だった。



 ・叔父夫婦が再び来てくれて昼食。

 ・しばらく経つとかみさんがホールに戻ってきてくれた。

 ・こういう時、掛け値なしに、連れ合いがいることがなんと心強いことだろう。

 ・「あんた、大丈夫?しっかりしてね」と励ましてくれる。



 ・夕方近くになって、湯灌というのをしてもらう。

 ・納棺師の方が、あらためて母の体を清め、死出の化粧をほどこしてくれる。

 ・その手際のよいこと。

 ・最後に、「逆さ水」というのを家族で取り、家族で体を清め拭いてやる。

 ・長男も二男も遺体を嫌がらずに拭いてくれる。

 ・悲しい中にも、小さな安堵が流れる。



 ・今夜は仮通夜。

 ・明日が本通夜。

 ・明後日が告別式と決める。



 ・夜を迎え、自宅に一回帰ってシャワーを浴びる。

 ・ホールに戻り、母の亡骸を前に酒を飲みはじめる。

 ・こうしていると、子どもたちがまだ小さかった頃、母が施設に入る前の、親子喧嘩をしたり、いさかいをしたり、笑いあったりして食卓を囲んでいた5人家族で住んでいた記憶がよみがえる。

 ・母の死去によって、久しぶりに家族5人が集まった仮控え室の、最後の一夜だ。



 ・深夜になって、どうしようもない悲しみが、心の底を突いて出てくる。

 ・声を上げて泣いた。

 ・「大丈夫ね?大丈夫ね?」とかみさん。

 ・「うん、なんとか」。



 ・そう、不思議なことに、この時以後号泣することはなかったのだ。