予定調和というのは、自律的に各人が行動していても、全ては神によりあらかじめ定められており、調和していく方向に行く、という考えである。旧約にあったと思う(コーランは旧約の最終解釈の書とされる)が、ライプニッツの説ともされる。Everything is writtenということかな。

 

AI(人工知能)に自律性を持たせる、更に汎用AIも研究・実用への開発投資競争に突入している。自律的というのは、例えばロボットであれば、人間がコントロールし、人間がプログラミングした通りのことをやるだけであるが、意志を持つことを意味する。暴走することもあり得る。

 

汎用AIとは、単機能のAIではなく、色んな事を学習し、多方面に対して、知的な対応が出来るものを指す。先ず、医療関係の情報処理(医学・薬学の論文や薬品、医療サービスに関わることなど)であれば、学習し適切な診断、処方は医者が平均80点とすると、95点くらいは楽勝で、日進月歩の分野であるから常に最新情報は踏まえている。医者は狭い範囲の情報にはついていけても幅広いことにはついて行きにくく、今日はそれが求められているとも言える。ただAIが画期的医学論文は書ける気がしない。

 

汎用AIが多方面の学習をして、更に進化した汎用AIを作れるかどうかは別として、人間が思いつかなかった進化形AIのモデルの提示,様々なことに絡む画期的論文につながる研究テーマを提案出来れば十分とも言える。AIと人間は補完的であることが、Aの暴走も人間社会の暴走もブロックすると思う。

 

Nothing is written. これは一面の真実である。100年前に誰が自律的、汎用的AIが現実味を帯びてくることを予想したであろうか。しかし、このことが我々をわくわくさせる全てである、と言える。日々ご飯をおいしくいただき、今後も数学研究にいそしもうと思っている。何でもそうかもしれないが、数学研究では予想外な展開になるときがたまらない。

 


>=======================================================
> 田坂広志 「風の便り」 四季 第61便
>=======================================================
>
> 「未来」に書かれたもの
>
> 名作映画『アラビアのロレンス』の中で、
> ピーター・オトゥール演じる、英雄ロレンスが、
> アラビア人兵士の部隊を率い、
> 灼熱の砂漠を越えて進軍する場面があります。
>
> このとき、兵士の一人が疲労困憊のために落馬し、
> 砂漠に一人取り残されてしまいます。
>
> 部隊が砂漠を渡り終えたとき、
> そのことに気がついたロレンスは、
> その兵士を助けに行こうと
> 自身も疲労困憊した体に鞭打って、
> 単身、灼熱の砂漠に引き返そうとします。
>
> そのとき、アラビア人の兵士の一人が、
> それを止めようと、言います。
>
> It is written.
>
> 彼が砂漠で死ぬことは、宿命だ。
> そのことは、コーランに、
> 既に書かれている。
>
> その言葉に耳を貸さず、ロレンスは砂漠に引き返し、
> 九死に一生を得る形で、その兵士を助け出します。
>
> そして、部隊に戻ってきたロレンスは、
> 精根尽きて倒れ込む前に、
> 静かに、しかし、力強く語ります。
>
> Nothing is written.
>
> 何も書かれてはいない。
>
> 我々の歩む未来には、何も書かれてはいない。
>
> それが、この世界の真実であるにもかかわらず、
> 我々の心の奥深くに宿る「生の不安」は、
> そのことを、受け容れられないのです。
>
> そして、そのことが、実は、
> 我々の「生の輝き」であることに、
> 気がつかないのです。
>
> 2002年12月26日
> 田坂広志
>