=======================================================
 田坂広志 「風の便り」 四季  第15便
=======================================================

 カオスの縁の「物語」


 いま、現代科学の最先端では、
 世界のトップレベルの研究者たちが、
 アメリカのニューメキシコ州にある
 サンタフェ研究所に集まり、
 「複雑系」の研究を進めています。

 そして、この分野におけるカリスマ的研究者であり、
 「人工生命」の研究の世界的権威である
 クリストファー・ラングトンが、
 興味深い理論を述べています。

 それは、「カオスの縁」という理論。

 最も生命的な現象は、
 完全な「秩序」(オーダー)でもなく、
 完全な「混沌」(カオス)でもない、
 その境界の「カオスの縁」と呼ばれる領域に生じる。

 このラングトンの語る理論は、
 我々が「いのち」というものを考えるとき、
 深い洞察を与えてくれるだけではありません。

 それは、東洋思想において伝えられる
 「中道」や「中庸」という言葉が、
 真に意味するものを教えてくれます。

 そして、この理論は、
 「こころ」や「ことば」というものを考えるときにも、
 我々に、大切なことを教えてくれます。

 なぜ、
 あまりにも「具体的」な物語や、
 あまりにも「抽象的」な物語は、
 生命力を持つことができないのか。

 その理由を、教えてくれるのです。


 2002年2月7日
 田坂広志

=========================

数学ではロゴスがある集合をファトゥ-集合、その外(補集合)のカオスが起こる集合をジュリア集合と言います。境目、つまりファトゥー集合の境界がカオスの縁ということになります。

私が学生時代に研究しようとしたのは、多変数函数論と偏微分方程式論の境目でした。昔から分野の境目が面白いということになっています。両方勉強しないといけないからしんどいと、敬遠するのが普通のひとです。私は脳味噌自体がこっちとあっちの境目で、芽が出始めたのは極最近です。