=======================================================
田坂広志 「風の便り」 四季 第11便
=======================================================
「透明な感性」が予感したもの
先生、気層のなかに炭酸ガスが増えてくれば暖かくなるのですか。
それはなるだろう。地球ができてからいままでの気温は、
大抵、空気中の炭酸ガスの量で
決まっていたといわれるくらいだからね。
カルボナード火山島が、いま爆発したら、
この気候を変えるくらいの炭酸ガスを噴くでしょうか。
それは僕も計算した。
あれがいま爆発すれば、
ガスはすぐ大循環の上層の風にまじって地球全体を包むだろう。
そして、下層の空気や地表からの熱の放散を防ぎ、
地球全体を平均で五度ぐらい暖かにするだろうと思う。
この対話は、
現在の地球温暖化をめぐっての対話ではありません。
いまから80年余り前の1932年に発表された小説。
そのなかで、主人公たちが行っている対話です。
その小説の作者は、宮沢賢治。
小説の題名は、『グスコーブドリの伝記』。
この小説の、この対話を読むとき、
我々は、静かな驚きを覚えます。
それは、片田舎に住む、一人の詩人の瑞々しい感性が、
人類の未来を予感していたことへの驚きです。
そして、その静かな驚きとともに、
我々は、深い不思議を覚えます。
世界をありのままに見つめる透明な感性は、
ときに、時空を超えて未来を感じとる。
その不思議です。
これからの時代のプロフェッショナルに求められているのは、
実は、その「透明な感性」なのかもしれません。
2002年1月10日
田坂広志
=======================
感性ねぇ~。数学者にも求めらるようです。それも透明な感性なのですが、そのあたりになるとかなり難しいと思います。産業革命以前は貴族などが好き勝手にやっていたでしょうから透明だったかと思うのですが、今のご時世でとなるとどうも。。。競争的研究資金の獲得力とか、とんでもないものが研究職のポストの採用に絡んだりもするようです。数学でです。世も末と感じます。私のお粗末な感性では。