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 田坂広志 「風の便り」 特選  第179便
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 経営者の失ったもの


 昔、ある企業の経営者の部屋を訪問したときのことです。

 その部屋には、小さな額縁に入った
 不思議な写真が飾ってありました。

 それは、太平洋戦争において、
 米軍機の総攻撃を受け、
 炎と煙を上げながら、
 いま、まさに沈没しようとしている
 日本軍の巡洋艦の写真でした。

 攻撃中の米軍機から撮影したと思われる
 その写真を飾っている理由を伺うと、
 経営者は、静かに、答えました。

  その船に、私は乗っていたのですよ。

 その巡洋艦の沈没とともに
 多くの水兵が海に投げ出され、
 その人物も、夕刻の海を漂流しながら、
 死を覚悟したとき、
 奇跡的に通りかかった自軍の船に助けられ、
 九死に一生を得た。

 その経営者の話を伺ったとき、
 なぜ、その人物が、
 千人を超える人々が集まる場において、
 ただ静かに乾杯の音頭を取るだけで、
 その場の雰囲気を制するか、
 その理由を知りました。

 生死の体験から掴んだ
 一つの資質。

  重量感

 それは、いま、
 多くの経営者が
 失ってしまったものなのかもしれません。

 2005年6月27日
 田坂広志

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悟りのきっかけは色々ですね。箒に石がカチッと当たって悟った人も居ます。しかもそれで終わりと言うことは無く、更に悟りを深め自分のものにしていくものでしょうね。今回の経済危機で私は多くのことを学びました。悟りとはほど遠いですが。