気まぐれ何でも館:(618)曽宮一念詩歌集 雲をよぶ(3)
  
 山畑の春遅ければ静かなりささやく水と匂う三椏(みつまた)
  
 旅にいて妹恋う花と覚えしにわれは母恋う野母(のも)の浜木綿(はまゆう)
   (著者註:野母=長崎の漁港)
  
 かたくりの咲く山里か砂山の陽炎(かげろ)う浜か母の足跡
  
 母恋えば荒砂村の浜浮かび寄せて砕ける波の音する
  
 海は母ははにはあれど水底にしきりに来いと甘く誘(いざな)う
  
 武蔵野につばなを食(は)める乙女たち牝牛に似たるまなこいとしき
  
 東海の不尽(ふじ)の裾野の川べりにわれ老い呆けて孫と戯る
  
 駆けて行く時の速さよ果てしなく情けもくれず返り見もせで
  
 離れ島島描くには上がらずに姫を描くには姫な抱きそ
  
 考える葦とは言えど枯れ朽ちて呆けて忘れて抜けて散るかも
  
 野も森も林も藪も消え失せて険しき人に国は埋(うず)まる
  
14.10.23 抱拙庵にて。