気まぐれ何でも館:(605)岡野弘彦(飛天)(12)
ながきながき夕映えののち砂山に夜の砂の哭(な)く音を聴きゐつ
日ののちを楡の林にやどりたる夜鳥の群はなほさやぐなり
はりえんじゅ花ふらしをり花虻の羽音かそけき下に来て立つ
ここ過ぎて帰らずなりしつはもの等ひく影ながく砂に顕(た)ちくる
オアシスの水に生まれて透きとほるあをきさかなを手にすくひたり
飯店の階のぼりきて匂いたつ韮にんにくの香りたのしき
満ちたりて心すべなし残りゐる北京ダックの脳せせり喰ふ
一族の老いと若きが集ひ飲む歓きはまりてなほ清き卓
新月は生(あ)れいでゐつ深ぶかと晴れてしづけき空のもなかに
おのづから騾馬あゆませて日ざかりの車の上に農婦眠れり
窓枠をはみ出て光るオリオンの大き星座の傾くはやし
羊追ひて帰りきたれる親と子の後姿(うしろ)あひ似て遠ざかるなり
地の涯に陽はおちむとし砂山の草ことごとく深き影もつ
14.8.16 抱拙庵にて。