「栽培期間短縮」「収穫量2倍」なぜかおいしい野菜が育つ植物工場
(PRESIDENT Online ) 2014年8月12日(火)配信

■野菜の味を良くすることも自由自在

総合化学メーカーの昭和電工で世界中から注目されているビジネスがある。それは発光ダイオード(LED)を使った植物工場だ。植物工場は気候や土壌に左右されずにいつも新鮮な野菜を届けられるため、現在急拡大中で手がける企業も多い。

そんな中にあって、昭和電工のものは他社ものとは一味も二味も違う。なにしろ、蛍光灯やLEDでの通常の栽培方法と比べ、出荷サイクルが短縮でき、収穫量が約2倍になるというのだ。もちろん電気代も蛍光灯の2分の1程度。しかも、それだけではなく、昭和電工の植物工場で育った野菜は味もいいのだ。

「LEDの光をコントロールすることによって、味を自由に変えられます。例えば、希望通りの甘さにするなど、その野菜が持っているポテンシャルを最大限引き出せるのです」と植物工場システム事業を指揮する事業開発センターグリーンイノベーションプロジェクト営業グループの荒博則マネージャーは説明する。

それを可能にしているのが、山口大学農学部の執行正義教授と共同開発した「SHIGYO法」だ。植物が生育するために行われる光応答(光合成、光形態形成など)には、植物の品種によって最適な赤色光、青色光がある。

SHIGYO法は、植物の生育に最適な照射方法(赤青比)を見出し、経時的に照射強度を変える方法だ。これによって、植物の生育を早めたり、収穫量を増やしたり、味をよくしたりできるわけだ。

「これまでに12の植物工場にうちのSHIGYOユニットが導入され、今年は4工場に導入される予定です。そのほかにも山のようにプロジェクトがあります」と荒マネージャー。

■LEDを使った新ビジネスの開発

このように引く手あまたの植物工場ビジネスだが、リーマンショックがなければ、やっていなかったかもしれないそうだ。

実は、昭和電工はLEDのパイオニアで、長年の経験と豊富な実績を生かして波長や強弱などの異なるさまざまなLEDを開発し、電子材料として提供してきた。このビジネスは非常に好調で、荒マネージャーは人事部から異動し、その応援に駆り出された。それが2008年9月16日だ。

「その日はちょうどリーマンショックが起こった日で、それを境に注文がなくなり、仕事がなくなってしまった。上司から『工場見学でもしていろ』と言われ、3カ月間何もせずに工場にいました」と振り返る。

その後、上司と相談し、LEDを使って何か新しいビジネスを始めようとなった。そこで、目を付けたのが植物工場だった。当時、LEDで植物を育てるという話が出てきていたからだ。しかし、昭和電工が持っていた赤色LEDは植物の栽培に最適ではなく、特殊な赤色LED、波長が660ナノメートルのものを開発する必要があった。しかし、それは不可能と言われており、当時どこの会社もできなかった。

そこで、技術陣が奮起してなんとか開発を成功させ、世の中に発表した。

すると、反響がものすごく、300件以上の問い合わせがきた。荒マネージャーはLEDを持って、その1件1件を回った。

■低コストでおいしい野菜が収穫できる

「感触はよかったのですが、入ってくる注文は10本単位で、とても商売にはなりませんでした。やはりコストが高かったのが原因で、それを下げることに尽力しました。と同時に植物の味を良くする研究も行ったのです」と荒マネージャーは話す。

その結果、コストが蛍光灯の2分の1抑えることができ、SHIGYO法の開発によって、味を良くすることにも成功した。あとは、それをいかに浸透させるかだ。そのためには、栽培ノウハウを指導する必要があると考え、川崎市に実証工場をつくって、さまざまな野菜の栽培を試みた。

しかも、昭和電工は植物工場に必要なアルミ部材や溶液、炭酸ガスなどを手がけており、自社で植物工場をつくれることがわかった。そこで、事業立案や栽培技術指導まで含んだ植物工場システム全体を売っていく戦略を取ることにした。福島県川内村につくった植物工場は非常に評判が良く、しかも栽培した野菜はほぼ完売の状況だという。

「基本的に光合成で育つ野菜や果物はすべてできます。実証工場では現在、30種類以上を栽培しています。そのほかにも、こんなものをつくれないかという話が非常に多く、海外からも来ているので、月に1回は海外に出張しています」と荒マネージャー。

昭和電工の植物工場ビジネスは、今年度13億円、来年度50億円の計画だが、そのポテンシャルは非常に高く、将来大きなビジネスに広がる可能性を秘めている。

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