「小保方事件と成果主義」ポスドク非正規研究者を不正に追い込む契約制度のワナ
(PRESIDENT Online ) 2014年5月1日(木)配信
■理研の研究者の8割は「1年更新」、常に雇い止めの恐怖にさらされる
世紀の大発見から一転、「STAP細胞」論文に不正があったと世の中から指弾されている小保方晴子さん。理研側は彼女一人を悪者にしようとしているが、なぜ大胆な不正行為に及んだのか。遠因には理研の組織風土が大きく関係している。
報道では理研の組織風土について「行き過ぎた成果主義により研究者が厳しい競争を強いられている」「任期付研究者が多く、業績がなければ研究者を続けられず、かかる重圧は相当なもの」という内部の研究者の声が紹介されている。
理研の研究者は「過度の成果主義」といつクビを切られるのかわからない「有期契約労働者」という不安定な身分にさらされているのだ。
実際、小保方氏をはじめとする大半の研究者は1年更新の契約社員であり、その数は3397人の研究者・職員のうち2793人、82%を占める(2012年度、理研資料)。
たとえば今年度募集の「博士研究員」(ポスドク)は「単年度契約の任期制職員で、評価によりプロジェクト終了(平成30年3月31日終了見込み)まで再契約可能。給与は、経験、能力、実績に応じた年俸制」と書かれている。つまり身分は非正規の契約社員だ。
もちろん、小保方氏の任期も5年だ。ポスドクなど大学や政府関連の任期付研究員は文科省の調べでは約10万人とも言われている。
日本学術会議の調査(2011年9月29日)では、任期付研究員の年収は300万円未満が15.1%、300~400万円未満が26.9%を占め、計42%。
年収は年を重ねても変わらず41歳以上でも400万円未満が約40%を占める。
また、有期契約という雇用形態に「全く満足していない」人が60%を超えている。任期付研究員になっても定年制研究員になれる保証はない。理研に限らず一般の非正社員と正社員の構図と何ら変わらない。
そのうえ、来年は契約を更新されないかもしれない、つまり雇い止めの恐怖に常にさらされる。一部上場企業の建築設計業の人事課長は「契約更新時期になると、仕事も手につかなくなるほど精神的に不安定な状態になる人が増え、中にはうつ症になり、精神科のクリニックに通う人もいる」と語る。こうした契約社員特有の精神的ストレスを抱えている人は理研にも相当数いるだろう。
■「科学者の楽園」も契約更新なければ奈落の底へ転落
加えて成果主義である。簡単に言えば、実績を評価して給与を増減させる仕組みだ。理研の成果主義の詳細はわからないが「年俸制」であり、理研の資料に「任期制研究員においても過度に成果を求めず、適正な競争環境を確保。信賞必罰は必要であるが、業績評価に基づく変動給への反映部分に一定のルールを設定」という記述がある。一般的に年俸制の場合、固定年俸と毎年の業績査定で決まる変動年俸で構成される。
その比率は固定が7割、変動が3割、過度の成果主義の企業は5対5のところもある。理研の研究員の平均年収は余所より高く700~800万円と言われる。
仮に固定が400万円であれば残りの400万円は業績によって大きく変動し、800万円もらう人もいれば500万円の人もいるかもしれない。
だが、研究者の尻を叩くような過度の成果主義がそもそも必要なのかという議論もある。大手自動車メーカーでは当初、研究所の社員にも成果主義を導入したが、職場が混乱し、廃止した経緯がある。
人事課長はこう語る。
「製造現場と研究所は成果主義になじまないことがわかった。製造現場はルーチンワークがメイン。給与差が10円でも違えば、何であいつが俺より高いんだと反発し、チームワークが乱れ、やる気を失ってしまう。同じように研究所の研究員は個性派揃いで互いにライバル関係にある。そんな人間をまとめるチームワークが何より大事であり、安易に成果主義を導入すると失敗する。研究には1年で成果が出せるものもあれば3~5年経たないと結果が見えない研究もある。下手な評価で給与の差をつけたりすると仲間の離反が起こり、混乱するだけだ」
じつは誰もが納得する公正な評価は存在しない。ましてや研究内容・期間が異なるうえに、格差をつけろと言われれば、どうしても上司の恣意的評価が入りやすく適正な評価が難しいのが民間企業の現実だ。
2011年に無給の客員研究員として入所した小保方氏の能力を見抜けずに、13年に29歳でユニットリーダーに昇進させた理研の「評価」も極めて怪しいといわざるをえない。
かつて生活不安もなく自由な研究が許され「科学者の楽園」と呼ばれた理研の研究員は、日々成果主義で締め付けられ、契約更新されないと奈落の底に突き落とされる恐怖の中で仕事をしている。
論文不正事件で思い出したのが、アクリフーズの農薬混入事件だ。犯行の背景に不安定な契約社員という身分に加えて、2012年から導入した成果主義で賃金を減らされるという労働環境があった。
極度のストレスと不満が工場内に蔓延していたことは想像に難くない。結果として悪質な事件は工場を操業停止に追い込んだが、一方、理研は小保方氏の不正論文という“爆弾”で世界中に理研の権威を失墜させる事態に追い込まれた。
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こりゃぁ天国というより地獄だわ。企業の人事の言うことはやっぱりまともですね。
(PRESIDENT Online ) 2014年5月1日(木)配信
■理研の研究者の8割は「1年更新」、常に雇い止めの恐怖にさらされる
世紀の大発見から一転、「STAP細胞」論文に不正があったと世の中から指弾されている小保方晴子さん。理研側は彼女一人を悪者にしようとしているが、なぜ大胆な不正行為に及んだのか。遠因には理研の組織風土が大きく関係している。
報道では理研の組織風土について「行き過ぎた成果主義により研究者が厳しい競争を強いられている」「任期付研究者が多く、業績がなければ研究者を続けられず、かかる重圧は相当なもの」という内部の研究者の声が紹介されている。
理研の研究者は「過度の成果主義」といつクビを切られるのかわからない「有期契約労働者」という不安定な身分にさらされているのだ。
実際、小保方氏をはじめとする大半の研究者は1年更新の契約社員であり、その数は3397人の研究者・職員のうち2793人、82%を占める(2012年度、理研資料)。
たとえば今年度募集の「博士研究員」(ポスドク)は「単年度契約の任期制職員で、評価によりプロジェクト終了(平成30年3月31日終了見込み)まで再契約可能。給与は、経験、能力、実績に応じた年俸制」と書かれている。つまり身分は非正規の契約社員だ。
もちろん、小保方氏の任期も5年だ。ポスドクなど大学や政府関連の任期付研究員は文科省の調べでは約10万人とも言われている。
日本学術会議の調査(2011年9月29日)では、任期付研究員の年収は300万円未満が15.1%、300~400万円未満が26.9%を占め、計42%。
年収は年を重ねても変わらず41歳以上でも400万円未満が約40%を占める。
また、有期契約という雇用形態に「全く満足していない」人が60%を超えている。任期付研究員になっても定年制研究員になれる保証はない。理研に限らず一般の非正社員と正社員の構図と何ら変わらない。
そのうえ、来年は契約を更新されないかもしれない、つまり雇い止めの恐怖に常にさらされる。一部上場企業の建築設計業の人事課長は「契約更新時期になると、仕事も手につかなくなるほど精神的に不安定な状態になる人が増え、中にはうつ症になり、精神科のクリニックに通う人もいる」と語る。こうした契約社員特有の精神的ストレスを抱えている人は理研にも相当数いるだろう。
■「科学者の楽園」も契約更新なければ奈落の底へ転落
加えて成果主義である。簡単に言えば、実績を評価して給与を増減させる仕組みだ。理研の成果主義の詳細はわからないが「年俸制」であり、理研の資料に「任期制研究員においても過度に成果を求めず、適正な競争環境を確保。信賞必罰は必要であるが、業績評価に基づく変動給への反映部分に一定のルールを設定」という記述がある。一般的に年俸制の場合、固定年俸と毎年の業績査定で決まる変動年俸で構成される。
その比率は固定が7割、変動が3割、過度の成果主義の企業は5対5のところもある。理研の研究員の平均年収は余所より高く700~800万円と言われる。
仮に固定が400万円であれば残りの400万円は業績によって大きく変動し、800万円もらう人もいれば500万円の人もいるかもしれない。
だが、研究者の尻を叩くような過度の成果主義がそもそも必要なのかという議論もある。大手自動車メーカーでは当初、研究所の社員にも成果主義を導入したが、職場が混乱し、廃止した経緯がある。
人事課長はこう語る。
「製造現場と研究所は成果主義になじまないことがわかった。製造現場はルーチンワークがメイン。給与差が10円でも違えば、何であいつが俺より高いんだと反発し、チームワークが乱れ、やる気を失ってしまう。同じように研究所の研究員は個性派揃いで互いにライバル関係にある。そんな人間をまとめるチームワークが何より大事であり、安易に成果主義を導入すると失敗する。研究には1年で成果が出せるものもあれば3~5年経たないと結果が見えない研究もある。下手な評価で給与の差をつけたりすると仲間の離反が起こり、混乱するだけだ」
じつは誰もが納得する公正な評価は存在しない。ましてや研究内容・期間が異なるうえに、格差をつけろと言われれば、どうしても上司の恣意的評価が入りやすく適正な評価が難しいのが民間企業の現実だ。
2011年に無給の客員研究員として入所した小保方氏の能力を見抜けずに、13年に29歳でユニットリーダーに昇進させた理研の「評価」も極めて怪しいといわざるをえない。
かつて生活不安もなく自由な研究が許され「科学者の楽園」と呼ばれた理研の研究員は、日々成果主義で締め付けられ、契約更新されないと奈落の底に突き落とされる恐怖の中で仕事をしている。
論文不正事件で思い出したのが、アクリフーズの農薬混入事件だ。犯行の背景に不安定な契約社員という身分に加えて、2012年から導入した成果主義で賃金を減らされるという労働環境があった。
極度のストレスと不満が工場内に蔓延していたことは想像に難くない。結果として悪質な事件は工場を操業停止に追い込んだが、一方、理研は小保方氏の不正論文という“爆弾”で世界中に理研の権威を失墜させる事態に追い込まれた。
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こりゃぁ天国というより地獄だわ。企業の人事の言うことはやっぱりまともですね。