気まぐれ何でも館:(595)岡野弘彦(飛天)(2)
  
 自転車をこぎて導く秋田びとの太きうなじに汗光りくる
  
 たくましき元自衛官佐々木氏は叱るに似つつわれを励ます
  
 風たちてみどり渦まく朝の森なんの花香ぞ胸に満つるは
  
 喘(あへ)ぎつつ登り至れる丘いちめん蓮華つつじの花ほむらだつ
  
 踏み分けて草生のなかに見いでたる真澄の墓の人めくあはれ
  
 旅にして果てむ命と思ひ定めいちしろき生(よ)をいきたまひけり
  
 噴きいづる泉の音に近づきて現し身の血のさやぐはたのしき
  
 ひたひたと水湧きいづる井の口に唇(くち)吸ふごとく寄りて呑みたり
  
 夜の湖(うみ)は闇のもなかにほの白し峡にひびきて青葉木菟(あをばづく)啼く
  
 みづうみをめぐる夜山に春の葉のそよぐひと夜をわれは眠りし
  
 草ふかき真澄の墓所をいできたり土うるほへる道につまづく
  
 とげざりし恋の終りに遭ふごとく北国の旅終へて帰りくる
  
 月の夜の湖の蒼さを病む者にかたらむとして心ためらふ
  
14.5.31 抱拙庵にて。