気まぐれ何でも館:(593)高野佐苗(二上ふもと その二) (最終回)
  
 逆光を受けて顔なき人の群れビルに陸続と吸はれて行けり
  
 天は耐へ得る人に辛きことを与ふると苦しき我に友の語りぬ
  
 瓶に挿す梅の蕾も散りにしに芽ぶく葉があり色淡くして
  
 かたむきて寄り添ひてゐるリンゴの実二つ机に置きて淋しき
  
 だんだんと他人となりてゆくために子を育てしと思ひて帰る
  
 亡き母が平らに生きる倖せを説きゐしことを思ひ出づるも
  
 木の芽ぶきうながす如く風うごく硝子隔てて眺めてゐたり
  
 己が眼の高さに人は見ると言ふ笹の葉ずれを目覚めて聞けり
  
 夕映えに赤絵と紛ふ二上の山の姿に老いたきものを
  
 駅前の売店とざされ山眠る斑の雪の下に待つ春
  
 寒椿赤きがままに落ちし故未練は花の中にて育つ
  
 旅人の目もて見ればこの里も長閑に暮れると思ふならずや
  
 うれしきはいくばくもなき世なれどもなほも生きよと師に諭さるる
  
 無心にて人を思ふを至福とす若さを母は危ぶみてをり
  
 淋しさと煩はしさを計りゐて独りを採ると頑なに坐す
  
 あるなしの風に光れる白萩の夕べの秋をゆく人のなく
  
14.5.17 抱拙庵にて。