気まぐれ何でも館:(586)高野佐苗(二上ふもと その二) (第3回)
男さび隔たり増せる子の世界母にはいつも子は膝の上
終電の音もかすかに過ぎゆきて真空となりし独り居の部屋
靴音の近づきくれば立ち上がる習ひもいつか忘れて久し
即席の味噌汁などの作り方ひとりどうしの話題の一つ
子を産みて大きくなすは犬ねこもすると思ひて虚しい心
思ひつきり話してみたし笑ひたし大声だして人を呼びたし
一束の吾亦紅を持ち来しはぎこちなくする告白ならむ
結婚は恋の破滅のほかならじバラもダリアも結実はなく
ひと処光り耀く星あるも流れる雲が又消してゆく
右の手と左の手とがあることは幅あるものを持つことならむ
濃き思ひ人を傷つけ己れさへ殺むる時あり八重椿落つ
14.4.5. 抱拙庵にて。