気まぐれ何でも館:(584)濱田廣介遺稿歌集 (最終回)
  
 落つる日の光かへして燃ゆるごと大き白樺高原に立つ
  
 高原のおくつきどころ立ちよれば木の十字架にきすげ花咲く
  
 山ならぶ甲斐の高原朽ちて立つ木の十字架に萩は垂れ咲く
  
 つなぎ馬首ふりをれり野は昼の光かがやきつつじ花咲く
  
 わがひろふこつは新らしその古き父の姿の目にはのこれど
  
 ちちすでになきかずにいりふるさとはさつきのやみにかはづなきをり
  
 いく野ゆきいく川ゆけどかけよりて迎うるなれにあふべくもなし
  
 野よ山よこえて果てなくわが行けど駈けくるなれに会ふべくもなし
  
 この道をただわがゆくといさみたつ足音もがな年の始めに
  
 わかがへるしるしともみむわがはだのしらがのねもとくろさしてをり
  
 啄木よしぶたに村におとづれてゆくべき日われいつにかわすれむ
  
 右まがり左くねりにそれぞれに秋の胡瓜となりにけるかな
  
 その昔つみしうこぎの木のとげのさきの痛さを思ひいでつつ
  
 髪白くなりゆくわれかかへらざる春日のをとめまなかひにして
  
 ふるさとをわが恋ひゆけば遠き日のをとめらすでに髪白くして
  
 つるばらの花の一つが咲き出でぬ紅(あか)くあたかも子供の日なり
  
 病み伏してしづかにきくかくりやべに老いにし妻が菜を刻む音
  
 こほろぎの鳴く音も絶えし丑みつの時をわが腰わがさすりをり
  
14.3.16 抱拙庵にて。