気まぐれ何でも館:(580)濱田廣介遺稿歌集 (6)
  
 阿波をどりをどる人形をとめごのやさし手ぶりは見れどあかなく
  
 たをやかにこの世の手ぶりをどれども足は行かざり人形なりき
  
 せんもなやもろ手やさしくあげたれどうつろまなざしまばたきぞなき
  
 やさをとめゑみてものいふ日のひと日あれとねがへり人形なれど
  
 春や来ぬ朝の目ざめにわが見やる阿波の人形ももいろのきぬ
  
 ものかかで老いゆくわれかほこりうく文箱の上の阿波の人形
  
 つきあかきとねのほとりにやどりしてきくやまよはのくだかけのこゑ
   (足立註:くだかけ=にわとり)
  
 はるの夜のあめのしづかさみみのあなかゆきをかきていまはいぬべく
  
 やまざくら梢はなるるひとときの風しづかなるゆふべなりけり
  
 ゆあがりのほほのほてりにかぜうけてむかへばしろきゆふざくらかも
  
 もやはれて日は空にあり村人らむれていね刈るとよの秋かも
  
 日のいれば雲のうなばら焼きなびけたちまち秋はやみに去りゆく
  
 夕ぐるる海のなぎなるしづけさになみだながれぬ吾がひとりゐて
  
14.2.15 抱拙庵にて。