気まぐれ何でも館:(579)濱田廣介遺稿歌集 (5)
  
 かきものにまなこつかれてのけざまにてあしのばしぬあきかぜのなか
  
 しぐれふるひるのさ庭の水ぶねにおよぐ金魚はべにちらしつつ
  
 そのふるき水ぶねにかもすみなれてやもめの金魚やとせへにけり
  
 くもり空大気冷ゆれど戸をささずわれは待ちをり後なる月を
  
 あさをくる玻璃(はり)の戸にゐてみをゆらぐかまきり見れば秋ふけにけり
  
 つはぶきの花のもとなる葉の床に果てしかまきりなきがらをおく
  
 あかりかげよせてのぞけばせなむけてくらきがかたにゆく秋のひき
  
 あさにけに目はふりゆくかしもつきのあかき入り日をまぶしみてをり
  
 たつ冬のうす日ぞのこる草の間に青きうまおひひげふらずかも
  
 寒き雨ふればふくらむ梅が枝のつぼみまろらに春立ちにけり
  
 うぐひすは遠くゆきしか今年また来なかぬ庭にわれひとりをり
  
14.2.7 抱拙庵にて。