気まぐれ何でも館:(577)濱田廣介遺稿歌集 (3)
  
 ふるさとの山のさくら木くれなゐに葉を染めたりやうれもしづえも
  
 ふるさとのまなびやの日はふりゆけどやなぎは芽ぶく春しきぬれば
  
 さとのべのわらべらわれをしらねどもわらべにわれは声かけてゆく
  
 ふるさとの春のまなびやたちよればわが日はるけく木もふりにけり
  
 なつふかみくれはつるにはにたちいでてそらながむればこころなごめり
  
 打たるればはへも生きものいともろくはだへやぶれて赤き血をふく
  
 ふるさとのなはてぞ恋ひてわがひとりゆけばすみれはむらさきに咲く
   (足立註:なはて=畦道)
  
 くぼ手してのべの川水子の口にすくひし母よいづちいにけむ
  
 まぼろしや春の道べにくる母をふとしもみしやあはれふるさと
  
 たらちねもゆきかへりけむふるさとの道のべゆけばちぐさもえつつ
  
 ふるさとの道しゆくともつゑつきてみおやたらちね来るべくもなし
  
 わがゆけばいでませおきなふるさとやおうなもきませ春日(はるひ)うららに
  
 母はなく父もまたなきふるさとのさつきのやみをほたるとびをり
  
14.1.24 抱拙庵にて。