気まぐれ何でも館:(568)至福の旅びと(篠弘歌集)(6)
かたすみにコピイ撮らむと壮年が撫で肩落とす苛立つさまに
鋭角に雁わたりゆき昼食を撮らざりし胃が痛みそめしか
せり上がり空に延びゆく高速路ルオーの描きし彩雲にあふ
麦畑の昏るるをゑがくゴッホの絵炎の芯が盛りあがりつつ
テーブルを点せば焦点きはやかにルノアールの絵肌が濡れゐる
絵画とはかく柔らなる線もちて女体うつすかドガのデッサン
ロシアよりファックスを待ち徘徊す若者は縞のネクタイ解きて
まじめなる若きに冗談まぜ返し煙草抜きつつ立ち上がりたり
雨脚の見えねど路面濡れてをり電話は追ひ来ず珈琲店に
きらめける人民広場の敷石や飛蚊症の目に黒きもの舞ふ
高層のホテルのはざまに風の渦文革世代は足冷えて立つ
直截に語りあはざる招宴のながびくままに酒は救はず
十年を要せる合作の辞書なりき表紙の文字に明朝(みんてう)えらぶ
「日中」の辞典は成るが合作は甘やかにして持ち出しなりき
13.11.23 抱拙庵にて。