気まぐれ何でも館:(565)至福の旅びと(篠弘歌集)(3)
  
 珈琲がデスクに配られくる朝を光りて揺るる黄のスカーフは
  
 この冬に編集長になりしひとたのしむごとし体躯太りて
  
 雪ひかる河岸(かし)に難民の子ら走る女男(めを)見分けえぬさまに着脹る
  
 オンドルの煉瓦煙突たつ民家つらなる径にやすらぐわれか
  
 簡潔につたふる若き通訳のことばは何を省きたりしか
  
 骨董の店のならべる仁寺洞(インサドン)あがなひしわが勾玉ふたつ
  
 殺(そ)がれたる西域仏像の小さき首やさしきものは俯きて立つ
  
 乳房(ちち)のごと白磁胎壺(たいこ)は眩しかり酒満たしけむいにしへびとは
  
 秋冷のフランクフルト図書展に、イラク、クウェートの出品はなし
  
 フランスがイラクに輸出したる武器その性能を証(あ)かせるあはれ
  
 競ひつつ武器売りつぎし大国ぞいかなるをもてイラク包囲す
  
13.11.3 抱拙庵にて。