気まぐれ何でも館:(564)至福の旅びと(篠弘歌集)(2)
  
 ここに集ふバーの仲間ら席決まり昼の仕事を問ふこともなし
  
 白魚は舌にさやりて冷たかりささやくごとくいのちしたたる
  
 フランスに帰化せし友の繰り言はその子らの職なべて危うき
  
 しなやかに肩を回して娘(こ)は打てり妻とのペアに声こだまして
  
 最終をバーで切り上げ青芝の露ひかる坂もどりきたりぬ
  
 伝票に右手をそへて差し出だすかかるしぐさを眩しみて受く
  
 全自動コンパクトカメラと訂正す差別用語なりし「バカちょんカメラ」
  
 点りたる夜をはばからずサルビアの咲き溢れゐて虻集ひくる
  
 日程の通りに走る生きいそぐおのれを知りて唇(くち)噛みてゐる
  
 頸筋のみだらに赤らみたりしさま地下鉄駅の壁のミラーが捉ふ
  
13.10.26 抱拙庵にて。