気まぐれ何でも館:(558)美しく愛しき日本(岡野弘彦)(13)
  
 海やまのあひだ 浦わの朝霞。ほれぼれとして 旅ゆかむとす
  
 人らみなほろびしあとに 石ひとつ置きて祈れり。沖縄の村
  
 坪庭の葉蘭にそそぐ宵の雨 ほのかに笑みて 母いますなり
  
 美しくかなしき日本。わが胸のほむら鎮めて 雪ふりしきる
  
 病み篤き師の枕べに 歌詠みてひたぶるに居し 心たもたむ
  
 夜を徹(とほ)し歌よみ明かすあかときに しんしんと老いの膝疼くなり
  
 雉の子も 小綬鶏も来ずなりし庭。ああさきはひの 時すぎにけり
  
 やまがらの山彦太郎 こだま姫 こもごもにわが肩に降りこよ
  
 心呆けて 愚かの歌もまじるべし。わが繰り言を ゆるしたまへな
  
 興りゆく日本に生きて 百世(ももよ)まで齢たもたむ。心たゆむな
  
 耐へしのぶこの国びとのかなしみに 沁みてうれしき ドナルド・キーン氏
  
 怒りすらかなしみに似て口ごもる この国びとの 性(さが)を愛(を)しまむ
  
 キーン氏と 共にゆかむと約したる 伊勢の宮居の み遷(うつ)りちかし
  
 身にせまる津波つぶさに告ぐる声 乱れざるまま をとめかへらず
  
 この親に過ぎたる娘(こ)よとなげく父、水漬く屍は 月経てかへる
  
13.9.13 抱拙庵にて。