気まぐれ何でも館:(557)美しく愛しき日本(岡野弘彦)(12)
  
 夜の峠越えて はるかにきこえくる。あかときの村に 犬の鳴く声
  
 白村江(はくすきのえ)のいくさ敗れて のがれ来し 百済びと 多く住める村かも
  
 戦ひに国ほろびたる後の世を 異郷に生きて ゆたかなる民
  
 生きゆかむすべ失ひて いくさより帰りし友が また命絶つ
  
 追放(やら)はれて やまとたけるのごとく行く われに かなしき妻も子もなし
  
 わがみ叔母 神の妻とし耐へ耐へて 白髪(しらかみ)ほほけ 黙(もだ)いますなり
  
 葛城の山辺の道のたそがれて 一言主は 耳にささやく
  
 凶まがと火を噴きあぐる列島に 漂(よ)りきて住めり 太古の民ら
  
 あくがれてこの島山にたどり来し わが遠つ祖。さびしかりけむ
  
 山は裂け 海は逆巻く列島の 空にとどろく富士の凶つ火
  
 とどろきて火を噴く山の峡ふかく 入野の土に 粟・稗を蒔く
  
 むらむらと空にみちくるあきあかね 豊葦原の秋をことほぐ
  
 きらきらし 魚鱗(いろこ)の宮の朝明けに 海のをとめの 玉の緒ゆらぐ
  
13.9.6 抱拙庵にて。