気まぐれ何でも館:(556)美しく愛しき日本(岡野弘彦)(11)
  
 檜隈(ひのくま)のみちの曲りにたたずめる かの古仏(ふるぼとけ)夢に顕(た)ちくる
  
 骨うづく寒夜の夢にしのびよる 眼も鼻もなき 野仏の貌
  
 まぼろしの明日香の村をゆきめぐる。老いさらばいし 足萎えわれは
  
 歌びとの若きらを率(ゐ)て大和ゆく 四十(よそ)ぢのわれを 夢に見てをり
  
 天(あめ)二上 みささぎの石に身を寄せて かなしむこころ 人知らざらむ
  
 夜ごと来て われの眠りをおどろかす 檜隈の森のむささびの声
  
 檜隈の姫のみ墓を守りつつ 猿石もともに 老いてゆくなり
  
 しのびきて われの眠りをいざなへり 目もとあやしき 猿石の顔
  
 呼子鳥ひとにこがれて鳴きいづる。二上山のまだ暗き空
  
 まほろばの大和かなしく旅ゆかむ。室生をすぎて 初瀬ま近き
  
 若き血は湯津磐群にたばしりて 謀反の皇子の殺されしところ
  
 たどりゆく道の隈ぐま おもかげに顕ちて責めくる 亡き友の顔
  
13.8.30 抱拙庵にて。