気まぐれ何でも館:(555)美しく愛しき日本(岡野弘彦)(10)
身は冷えて骨うづく夜に 今生のさくらを見むと 家をいできぬ
磔刑(たくけい)の形くるしき列島を 血に染めてゆく 桜前線
あかときの峡にひびきてさやかなり。 海越えて来し駒鳥のこゑ
黄金なす八丈きぶし。花房の下ゆく娘らの 面わにほへり
秋風の大和のむらを行きゆかば、うら若き日の 君に逢はむか
八十ぢなかば 骨ぼろぼろに疼く身を 潮のいで湯に浸りつつ耐ふ
あかときのこころにきざすまぼろしを たのしむごとく 歌よみましき
水楢の木むら にはかにたそがれて 夜鷹の声はたましひを呼ぶ
まれびとの訪ひくる夜ぞ。師は面わ削げて さびしく 黙(もだ)いますなり
亡きのちの世を つばらかに語りいでて しづけき顔は キリストに似る
夜のしぐれ 谷をくだりてしづまれる かそけき音を 聞きいますらし
人間を深く愛する神の歌。詠みいでて また師は 眠りゆく
13.8.24 抱拙庵にて。