気まぐれ何でも館:(553)美しく愛しき日本(岡野弘彦)(8)
  
 吉野山。胸せまりくる花のかげ 西行のごとく われは死なむよ
  
 南朝の怨念ふかきなげき歌。おどろおどろを われは好まず
  
 敗帝の道を耐へゆくかの人も われらも 暗き血を継ぎてをり
  
 正成がわが子にさとす言の葉に あらがひて われは家継がざりき
  
 もののふの かたくなの義にかかはらぬ 正行の母はかなしかりけむ
  
 池水をいでてもとほる石亀の 動きはかなく 春たけむとす  
 亀が啼き くちなはがうたふ世の末に あはれ 茂吉が歌のよろしき
  
 かへりみず 修羅のちまたにい征く身に 玉葉集の歌の恋ほしさ
  
 山寺の常照皇寺 咲き垂るる しだれ桜の下に眠らむ
  
 太平記 立ち腹切りしもののふの 修羅のなごりの あまりむなしき
  
 雄叫(をたけ)びて 遠流(をんる)の島に果てゆきし もののふの裔(すゑ)のひとりぞ われは
  
 箱根路にありて実朝が歌ひてし 沖の小島の七つ島みゆ
  
13.8.9 抱拙庵にて。