気まぐれ何でも館:(551)美しく愛しき日本(岡野弘彦)(6)
  
 フィレンツェの秋の恋ほしさ。老ゆるなくりりしき神の像 そそり立つ
  
 レオナルドより ミケランジェロが好きといふ少女 薔薇の芽の胸乳(むなち)立たせて
  
 神すでに死にたればなし と言ふ声の、夜々にひびきて 世は廃れゆく
  
 淡雪のふる夜ひそかに 額髪(ひたひがみ)ぬれて訪ひきぬ わかき恋びと
  
 明日香なる杜(もり)のま闇にしづまれる 巨(おほ)きリンガに 身を寄せて立つ
  
 高千穂の夜の神楽にまぎれ入り 世を去りゆかば たのしからまし
  
 伊豆の海遠流(をんる)の島の影ふかし。役小角(えんのをづぬ)に手向けの貝ふく
  
 遠つ世のやまとの恋のなげき歌。若者に説き 老ゆることなし
  
 わたつみと空ととけあふ涯遠く 魂の舟 そこを過ぎゆく
  
 海やまにあまねくいます神を信ず。彼の一つ神争へる世に
  
 足裏(あうら)いたく 溶岩(マグマ)の原をふみしめて とほつ祖(おや)の世を わが恋ふるなり
  
 咲きみつる大島桜。朝はやき木下に立てば、花香(はなが)すがしき
  
 海原にあまねく照りて 天つ日は 天城の峯に いま沈みゆく
  
13.7.27 抱拙庵にて。