気まぐれ何でも館:(549)美しく愛しき日本(岡野弘彦)(4)
日本を知らぬ人らに説かむとせし 日本学ノート 古りてなほ持つ
月光(つきかげ)に あぢさゐの蒼冴ゆる夜の 深きあはれを 告げやらましを
フランスに行かむと思ひ とげざりし 半生涯の悔いのはかなさ
み火焚きの翁となりてつとめけり。伊勢の宮居のみ遷(うつ)りの庭
人の世に火を生みいでて うら若き身は焼かれゆく いざなみ あはれ
戦ひに出でゆく朝の炉火くらし。生きよ と母のしのび泣く声
ましぐらに暗闇坂を駈けくだり 蓮華花田の土に 身を臥す
老いふかき耳に よみがへるかなしみは 花踏みてうたふ 子らのわらべ歌
たそがれて 野づらに燃ゆる菜種畑。花香(はなが)しんしんと身をつつみくる
眼とづれば おもかげ見ゆる。をとめひとり この蘆原に命絶ちにき
天地(あめつち)の冥(くら)きはじめに 真をとめの丹(に)の頬(ほ)かがやく 天の浮橋
「あなにやし えをとこを」 まづ言ひいづる夫(つま)恋ひの 可美少女(うましをとめ)の 息ざし匂ふ
成りなりて 成りあはざると告げしのち しほしほとして をとめ従ふ
縄文の土偶のをみな。肉置(ししお)きの厚き胸乳(むなち)に 男をかき抱く
13.7.14 抱拙庵にて。