気まぐれ何でも館:(547)美しく愛しき日本(岡野弘彦)(2)
  
 磔刑(たくけい)の身を反らし立つ 列島弧。血しほに染めて 花さきさがる
  
 白鳥は来るであらうよ。永劫の弥勒の花の 咲きいづる世に
  
 列島を去る日ま近き白鳥は 岸とほくゐて 人をゆるさず
  
 一列(ひとつら)に羽根をたわめて あかねさす雲に入りゆく たましひの鳥
  
 この国に生(あ)るるなかりしみどり児の 声かうかうと 雲に入りゆく
  
 かなしみを内にひそめて ほむらなす咲きかがよへり 日本の桜
  
 春の峡ゆるがして啼く蟇のむれ。土蜘蛛の裔(すゑ)のなげき湧きくる
  
 胸ふかく 骨をけづりて射こまれし 鏃は 熱をもちて疼けり
  
 人ほろび 山河むなしき列島の のつぺらぼうの 岩に陽はてる
  
 この国の歌のほろぶる世にあひて 命むなしくなほ生きてをり
  
 地をおほひ散り頻(し)く花にうづもれて 魂は 身を離(さか)りゆくらし
  
 白鳥はふたたび来じと 天つ道羽音するどく 翔ちゆきにけり
  
 碧落に入りて帰らぬ白鳥の 声かうかうと 空にこだます
  
13.6.23 抱拙庵にて。