気まぐれ何でも館:(545)落合直文(萩之家歌集)(最終回)
  
 釣やめてこのまま舟に寝てゆかむ夕かぜすずし岸の蘆原
  
 荷の下(した)に啼くこほろぎのこゑすなり夜やふけぬらし淀の川舟
  
 山寺の鐘のひびきにねざめして西へかたぶく月を見るかな
  
 落栗におどろかされて蟷螂(かまきり)のいかりしさまもおもしろきかな
  
 今日一日(ひとひ)うき世わすれて君と共にながめたりけり峰の白雲
  
 うせし子に面影似たる雛もあり買ひてゆかまし妹に見すべく
  
 吾妹子が挿しし小瓶(をがめ)の卯の花に水やりをればほととぎす啼く
  
 君が名を軒の鸚鵡にをしへけりひとりさびしき五月雨のころ
  
 さわさわとよせくる磯の秋の湖に足をひたして歌をこそおもへ
  
 病める身の縁までいでて蜘蛛の巣にかかりし蝶を放ちてやりぬ
  
 人の世にのぞみたちたるよわき身のめづべき花か露草の花
  
 かへりゆくやもめがらすを見おくりて尼君たてり長谷の山道
  
 をとめらの黍つき唄にねざめして夕顔棚の月を見しかな
  
 おなじ世にたまたま君と生まれきてともに歌よみともに萩見る
  
13.6.9 抱拙庵にて。