気まぐれ何でも館:(541)落合直文(萩之家歌集)(7)
をとめ子が繭入れおきし手箱よりうつくしき蝶の二ついできぬ
さあさわとわが釣りあげし小鱸(をすずき)の白きあぎとに秋の風ふく
(足立註:あぎと=えら)
わが歌をあはれとおもふ人ひとり見出でて後に死なむとぞ思ふ
しばしとて腰かけたるもえにしなり歌しるしおかむ野の一つ石
碁をくづす音ばかりして旅やかたしづかに春の夜は更けにけり
道ばたの石のほとけの花立(はなたて)に野菊にほへり誰が手向けけむ
たちこめしかすみのおくに順礼の歌もきこゆる長谷の山道
海見ゆるこの掛茶屋にやすらひて歌おもひをれば千鳥なくなり
この松はわが曾祖父(ひいぢぢ)の植ゑたりとかたるその人また老いにけり
里の子にたちまじりつつ寺の門(かと)に年わかき尼の羽(はね)つきてあり
山寺の石のきざはしおりくれば椿こぼれぬ右にひだりに
わが宿は田端の里にほどちかし摘みにも来ませ鈴菜すずしろ
13.5.11 抱拙庵にて。