気まぐれ何でも館:(540)落合直文(萩之家歌集)(6)
  
 植ゑましし父はまさねどこの夏もさきいでにけり撫子の花
  
 小瓶(をがめ)をば机の上にのせたれどまだまだ長ししら藤の花
  
 萩寺の萩おもしろし露の身のおくつきどころこことさだめむ
  
 磯松を今はなれたる荒鷲のゆくへに見ゆる蝦夷の遠山
  
 君が袖にふれてうごきし白あやめ明日(あす)むらさきに咲きやかはらむ
  
 ただひとり式部の墓に手むけして紫野くれば雉子(きぎす)なくなり
  
 簪(かざし)もてふかさはかりし少女子のたもとにつきぬ春のあわ雪
  
 わが宿をとふ人たえてしをり戸のかけがね錆びぬ五月雨のころ
  
 たをりきてわれ手むけぬとなき人の母にないひそ姫百合の花
  
 霜やけの小さき手して蜜柑むくわが子しのばゆ風の寒きに
  
 長谷寺はこれより右としるしたる石をぬらしてゆくしぐれかな
  
 このゆふべちぎりし人を待ちわびて三たびめぐりぬ庭の萩原
  
 遠くちかくひびく五山(ごさん)の鐘の音も聴きわくるまで里なれにけり(鎌倉にて)
  
13.5.3 抱拙庵にて。