潜入体験ルポ/東電福島第一原発事故「賠償金算定」驚愕の実態
異常な守秘義務、不条理なマニュアル、頻発する作業ストップ…
(週刊朝日 2013年5月3日・10日合併号配信掲載) 2013年4月24日(水)配信
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300坪を超える作業フロア
福島第一原発事故から2年以上たったというのに、放射能汚染水は相変わらずだだ漏れ。東京電力の補償作業も遅れに遅れている。それもそのはず、都内で密かに進められている作業は、むしろわざと遅らせているとしか思えない状況だった。実際に働いてわかった驚愕の実態をルポする。ジャーナリスト 宮田賢浩
東京都江東区、りんかい線の国際展示場駅で降りると正面に、コミケ(コミックマーケット)などの会場として有名な東京ビッグサイトがある。そのすぐ手前の20階建てオフィスビル「有明セントラルタワー」が、“仕事”の現場だった。
私が派遣会社の派遣社員として、この現場に勤め始めたのは、昨年の初夏のことだった。午前9時から午後6時まで、実働8時間で週5日、時給1100円。
仕事内容は、福島第一原発事故をめぐる東京電力の補償業務のデータ入力である。具体的には、原発事故による避難慰謝料と休業補償について、住民の家庭ごとにまとまった請求書などの書類ファイルを東電の社内ネットワークから検索し、それをもとにエクセルにデータを記入する──という仕事だ。
ところが、出勤初日の研修の時点から浮かんだ「疑問」は、1カ月もしないうちに「疑惑」へと変わっていくことになった。
派遣会社による研修は、まず「守秘義務」を延々と説くことから始まる。個人情報を扱う仕事であるから、確かに重要なことだ。オフィスへの携帯電話の持ち込みはもちろん、ペンや紙類も規制された。
ところが、彼らが要求する「守秘義務」はそれにとどまらなかった。仕事内容をオフィス以外で話すことは厳禁、その上、相手が肉親であろうが誰であろうが、オフィスの所在地でさえ明かしてはならない──というのだ。文字どおり「秘密の業務」、まるでCIAやMI6のスパイ並みの厳重さである。
ならば、さぞかし高度な業務かと思いきや、実務研修は「マウスの操作」から始まった。
派遣社員は、20人前後を1班として1フロアに12班、総勢二百数十人が縦約20メートル、横約50メートルのだだっ広い部屋に配置され、それが数フロアにわかれているという大所帯だった。とにかく手当たり次第に雇ったのか、「フォルダ」の意味すらわからない、というおばちゃんも大勢いた。パソコンを操作してファイルを開く、という作業を全員がのみ込むのに30分はかかっただろうか。
この基礎研修の後も、作業内容が変わるごとに1日から数日の研修があった。そこで強調されるのが、「マニュアル遵守」だった。とにかくマニュアルどおりに進行するよう繰り返し求められ、自らの判断を決して入れないように、と注意された。しかし、いざ本作業になると、このマニュアルから次々と不都合が噴き出したのだ。
たとえば、補償請求には「被災証明書」、もしくは「住民票」が必須とされたが、これらの書類と手書きの請求書の内容が違うことがある。家族構成が違う、旧漢字と常用漢字で違っている、生年月日などの記載ミス、未記入項目がある、旧姓になっている、そもそも住民票がなくて戸籍謄本だったり、運転免許証だったり、母子手帳だったり……。
こうした想定外の事態が起きると、まずはその場で、派遣会社の社員が会議する。それで決まらなければ、東電社員と協議する。これが早くて数時間、長いと数日もかかり、その間、作業は中断される。しかも、午前の方針が午後には正反対に改正、まさに朝令暮改が日常茶飯事で、そのたびに派遣社員から失笑が漏れた。
なかでも驚いたのは、記入された住所に「大字」「字」が入っていないだけで、無効にするかどうかを巡って、数日間もめたことだ。最終的に、これらはそのまま作業することになったが、たとえば「福島県」や「双葉郡」が抜けた書類は最後まで無効のままだった。その理由を派遣会社の社員に問うと、
「(その町名が)他県にもあるかもしれないと、上から(東電から)言われている」
という常軌を逸した答えが返ってきた。
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以下、馬鹿馬鹿しいので略。
異常な守秘義務、不条理なマニュアル、頻発する作業ストップ…
(週刊朝日 2013年5月3日・10日合併号配信掲載) 2013年4月24日(水)配信
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300坪を超える作業フロア
福島第一原発事故から2年以上たったというのに、放射能汚染水は相変わらずだだ漏れ。東京電力の補償作業も遅れに遅れている。それもそのはず、都内で密かに進められている作業は、むしろわざと遅らせているとしか思えない状況だった。実際に働いてわかった驚愕の実態をルポする。ジャーナリスト 宮田賢浩
東京都江東区、りんかい線の国際展示場駅で降りると正面に、コミケ(コミックマーケット)などの会場として有名な東京ビッグサイトがある。そのすぐ手前の20階建てオフィスビル「有明セントラルタワー」が、“仕事”の現場だった。
私が派遣会社の派遣社員として、この現場に勤め始めたのは、昨年の初夏のことだった。午前9時から午後6時まで、実働8時間で週5日、時給1100円。
仕事内容は、福島第一原発事故をめぐる東京電力の補償業務のデータ入力である。具体的には、原発事故による避難慰謝料と休業補償について、住民の家庭ごとにまとまった請求書などの書類ファイルを東電の社内ネットワークから検索し、それをもとにエクセルにデータを記入する──という仕事だ。
ところが、出勤初日の研修の時点から浮かんだ「疑問」は、1カ月もしないうちに「疑惑」へと変わっていくことになった。
派遣会社による研修は、まず「守秘義務」を延々と説くことから始まる。個人情報を扱う仕事であるから、確かに重要なことだ。オフィスへの携帯電話の持ち込みはもちろん、ペンや紙類も規制された。
ところが、彼らが要求する「守秘義務」はそれにとどまらなかった。仕事内容をオフィス以外で話すことは厳禁、その上、相手が肉親であろうが誰であろうが、オフィスの所在地でさえ明かしてはならない──というのだ。文字どおり「秘密の業務」、まるでCIAやMI6のスパイ並みの厳重さである。
ならば、さぞかし高度な業務かと思いきや、実務研修は「マウスの操作」から始まった。
派遣社員は、20人前後を1班として1フロアに12班、総勢二百数十人が縦約20メートル、横約50メートルのだだっ広い部屋に配置され、それが数フロアにわかれているという大所帯だった。とにかく手当たり次第に雇ったのか、「フォルダ」の意味すらわからない、というおばちゃんも大勢いた。パソコンを操作してファイルを開く、という作業を全員がのみ込むのに30分はかかっただろうか。
この基礎研修の後も、作業内容が変わるごとに1日から数日の研修があった。そこで強調されるのが、「マニュアル遵守」だった。とにかくマニュアルどおりに進行するよう繰り返し求められ、自らの判断を決して入れないように、と注意された。しかし、いざ本作業になると、このマニュアルから次々と不都合が噴き出したのだ。
たとえば、補償請求には「被災証明書」、もしくは「住民票」が必須とされたが、これらの書類と手書きの請求書の内容が違うことがある。家族構成が違う、旧漢字と常用漢字で違っている、生年月日などの記載ミス、未記入項目がある、旧姓になっている、そもそも住民票がなくて戸籍謄本だったり、運転免許証だったり、母子手帳だったり……。
こうした想定外の事態が起きると、まずはその場で、派遣会社の社員が会議する。それで決まらなければ、東電社員と協議する。これが早くて数時間、長いと数日もかかり、その間、作業は中断される。しかも、午前の方針が午後には正反対に改正、まさに朝令暮改が日常茶飯事で、そのたびに派遣社員から失笑が漏れた。
なかでも驚いたのは、記入された住所に「大字」「字」が入っていないだけで、無効にするかどうかを巡って、数日間もめたことだ。最終的に、これらはそのまま作業することになったが、たとえば「福島県」や「双葉郡」が抜けた書類は最後まで無効のままだった。その理由を派遣会社の社員に問うと、
「(その町名が)他県にもあるかもしれないと、上から(東電から)言われている」
という常軌を逸した答えが返ってきた。
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以下、馬鹿馬鹿しいので略。