気まぐれ何でも館:(539)落合直文(萩之家歌集)(5)
  
 歌まくらたづねたづねて寝(ぬ)る夜半は月と花との夢のみにして
  
 事しあらば君が御楯とならむ身のなどかくばかり痩せはてぬらむ
  
 鶏(にはとり)のこゑぞきこゆるこのおくに家やあるらし岡の松原
  
 ふるさとの妻子(つまこ)いかにと寝もやらで雨ききをれば雁なきわたる
  
 さくら木の枯枝たきてさむき夜を賤とかたれりみ吉野の里
  
 夕日かげはやかたぶきし山かげにいつまで子らの椎ひろふらむ
  
 水上にをとめが伴(とも)のかげ見えて里の小川を根芹ながるる
  
 冬の夜のさえゆくままにうづみ火の消えにし人をわれしのぶかな
  
 かくばかり悲しきものと昨日まで聴かざりつるを入相の鐘
  
 花のころ母と来て見し山里のさくらの林しぐれそめけり
  
 たれこめしわが身も春のゆくへをば君がなさけの花に知るかな
  
 吾妹子の肩によりながら庭に出でてちりゆく花を今日見つるかな
  
 明日しらぬ身をばわすれて大かたに人は聴くらむ入相の鐘
  
13.4.27 抱拙庵にて。