気まぐれ何でも館:(538)落合直文(萩之家歌集)(4)
さく花はあとなくちりてうぐひすのみささぎ寒く春雨ぞふる
杉むらをわたるあらしのこゑたえておぼろ月夜に狐なくなり
をさな子が手もとどくべく見ゆるかなあまりに藤のふさながくして
み越路の夏をしらねの山もとは今こそ萌ゆれ谷のさわらび
梟のこゑする森の杉の上にひかりも青き月いでにけり
さくら炭かきおこしつつ寝たる夜の夢にも聞きつうぐひすのこゑ
風さむみねざむる親のそのために炭さしそへむ夜半のうづみ火
春の日も長くやなりし暮るる待たで花にねぶれる蝶もありけり
大原女がいただく柴もぬれにけり北山あたりしぐれしぬらむ
朝ぎよめせましとおもふ庭の面に桐の葉ちりぬ秋や立つらむ
をとめ子が髪のかざりのつくり花見つつ逐ひゆく蝶もありけり
ふく風にきえしともし火ともさずてそのまま軒の月を見しかな
うつしうゑし紅梅の花さきにけりもとのあるじに文ややらまし
13.4.20 抱拙庵にて