気まぐれ何でも館:(537)落合直文(萩之家歌集)(3)
  
 かりねするこよひの宿の近からば折りても行かむさ百合撫子
  
 なかなかに訪はれぬもこそうれしけれつもりしままの庭の白雪
  
 里の子にすみれの床はゆづりおきてひとり雲雀の空に啼くらむ
  
 母君のここにしまさば聞きつともかたらむものを初ほととぎす
  
 をちかたに笛の音すなりさ夜ふけて月にねられぬ人やあるらむ
  
 里人のをしへしあたりたづねきてまことに聞きぬうぐひすのこゑ
  
 みちのくは歌まくらおほしうたよまぬ人なゆるしそ白河の関
  
 もしほやく煙はたえてすまの浦や波間にうかぶ紀路のとほ山
  
 秋もなほ人は訪ひけりわがやどのさくらの紅葉いろあかくして
  
 母の背にむかしながめしわが身とは知るや知らずやふるさとの月
  
 たふれたる松をそのまま橋にして賤はかよへり谷のあなたに
  
 木曾の山わがこえ来れば水無月に袷をぬがぬ里もありけり
  
13.4.13 抱拙庵にて。