数学は人文系である

学問はしばしば、「自然科学(natural science)」、「社会科学(social science)」、「人文科学(humanities)」の3つに分けられる。この3つのなかで、数学はどこに属するだろうか。

「もちろん自然科学でしょ」と答える人が、おそらく多いだろう。しかし、これは間違いである。数学は、自然科学には欠かせないものだが、数学自体は自然科学ではない。

自然科学は、人間が作ったものではない「自然」というものについて、その性質や規則性をさぐるものである。いっぽう、数学はすべて人間が作ったものであり、一種の言語体系である。数学は自然に属してはいないのだ。よって、数学は自然科学ではない。

数学が社会科学ではないことは明らかだろう。社会科学は、人間の集団が生み出す社会というものについて、その性質や規則性をさぐるものである。

数学が自然科学ではなく、また社会科学でもないとすれば、あとは人文科学しかない。じっさい、数学は一種の言語体系なのだから、哲学や言語学といっしょに人文科学に含めても、それほどおかしくはない。

数学と同じく、論理学やコンピュータ科学なども、自然科学ではない。よって、これらも人文科学に入れるしかない。しかし、こういうものを人文科学に入れるのはちょっと違う気がする、ということで、「形式科学」という分類があるようだ。私はこの分類があまり好きではないが(関連:「「形式科学」なる概念があるそうだが、数学は科学なのか?」)、人文科学のうち、論理的整合性を重視するものをそう呼ぶのであれば、わりと納得できる。

「数学は人文系である」と聞いて、もし違和感があるとすれば、理系・文系という日本式の分類に慣れすぎているからだろう。理系・文系という分類では、人文科学と社会科学の区別があいまいになる。世界的には、自然科学、社会科学、人文科学の3つをきちんと区別するのが、おそらく一般的だろう。

古代ギリシアにはじまる「リベラル・アーツ(自由七科)」の分類では、哲学・言語・数学はきわめて近い位置にあり、これらがあらゆる学問の基礎と見なされている。この観点に立てば、自然科学、社会科学、人文科学の3つのうち、もっとも基本になるのは人文科学である。これを基礎として身につけてから、自然科学と社会科学を学んでいく、という順番になるのだ。

なお、ここでは慣例にならって「人文科学」と書いたが、私はこの表記はあまり好きではなく、「人文学」のほうがいいと思っている。ウィキペディアの解説にもあるように、「人文科学」と呼ばれているものの原語は「humanities」で、そこに「science」は含まれていない。内容からいっても、人文科学は「科学」とは言えないように思う。しかし、「自然科学」や「社会科学」と並べて書くときは、「人文科学」のほうが語呂がいいことはたしかだ。「形式科学」もそうだが、ここまで「科学」の範囲をひろげてしまうと、ただの「学」に近い意味になる。しかし、そのほうが語呂がよく、分類上もわかりやすいので、「科学」が拡大解釈されているのだろう。

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私は難しい理屈には滅法弱いのですが、数学を言語と見る人は、数学を使う人に多いようですね。数学を研究している者は数学的自然を研究対象としています。その数学的自然は物理的自然とオーバーラップしているし、まあ社会的現象の中に数学的自然を抽出する人もいます。しかし私の数学的自然は過去の数学の中から構築してきた要素が強いです。あくまでも私の脳内にですが。論文として発表すると、一応れっきとした数学的自然に組み込まれます。岡潔は数学は精神科学の粋と言ってますが、彼はそう言いきれる実感を持っていたんでしょう。私は理屈はどうでもよく、研究を楽しんでいるだけですが。