はじめてのケインズ 長引くデフレ、財政政策に再び注目
『不況の時は穴を掘って埋めるだけでも意味がある』とケインズは言ったのか?
著者:ケインズ、間宮陽介 出版社:岩波書店 価格:¥ 1,575
長引くデフレ不況からの脱却を巡る経済政策論争が喧(かまびす)しいなか、2週連続で経済思想を特集する。今回は、一度は「死んだ」とまで言われたが、改めて注目を浴びるこの人だ。
ジョン・メイナード・ケインズは、恵まれた家庭で育ち、幼少時から誰もが一目を置く大秀才だった。研究生活の一方、現実政治に深く関わる。株の投機にのめり込み、財産を失いかける「ばくち打ち」の顔もある。
一大センセーションを起こしたのが52歳で発表した『一般理論』だ。当時の主流経済学は、失業について、賃金の高止まりが原因で、企業が人を雇わなくなるなどと説明。長期的には市場が解決すると考えた。
だが、ケインズは企業や消費者が、モノやサービスを買わなくなる「需要不足」に着目し、従来の「不況」観を一新した。経済学者が長期的な視点で考えがちな傾向を「長期的には人はみな死ぬ」と警鐘を鳴らし、短期的な経済政策の意義を強調した。
◇
ケインズ政策の「代名詞」は公共事業だ。「穴を掘って埋める」だけでも、雇用が生まれて意味があると考えていたと説明される。
平井俊顕・一橋大学客員教授(経済学史)は、公共事業を重視していたのは「政府の慎重すぎる行動は失業を悪化させるだけと考えていたから」と説明する。
ただ、実は「死亡宣告」を一度受けた考えだ。先進各国がケインズ政策を採用した1970年代、インフレと不況が同時に進むスタグフレーションが起きた。欠陥が指摘され、市場の機能をより重視する立場が主流になった。
だが、その潮目も2008年のリーマン・ショックで変わる。不況脱却にオバマ米大統領が打ち出したのは、多額の公共事業を盛り込んだ7870億ドル(約74兆円)の景気対策だ。米国を中心に話題を集めたネット動画「ケインズVS.ハイエク」でケインズ役の男は、自信満々の様子で論敵に言う。「不況はエンストのようなもの。起動させるには点火が必要。09年で大不況は終わっただろ」
◇
ただ、平井さんは「財政政策はあくまで需要をつくる『処方箋(せん)』の一つ。本人が終生重視したのは貨幣や金融の役割です」と指摘する。財政政策ばかりが注目されがちだが、ケインズは不況と「お金」の関係も分析していた。
松尾匡(ただす)・立命館大教授(理論経済学)は「不況の原因とみなしていたのは、お金を手元におきたいという欲望だ」と話す。先行き不安が募り、モノの価格が全般的に下がる「デフレ」になると、お金の価値は持っているだけで相対的に上がる。すると人はモノを買わず、需要が拡大しない。こうして不況が生まれてしまうと考えた。
松尾さんは「お金を手元に置くメリットを下げる。このケインズの考えは、現代の金融緩和にもつながっている」と指摘する。
短期的な景気変動が生み出す負の帰結に敏感だったケインズ。デフレに苦しむ日本を見たらどんな政策を打ち出すだろう。(高久潤)
◆読む
ケインズという人を丸ごと知りたい人には、大著だがジル・ドスタレール『ケインズの闘い』(藤原書店)。新書で読める包括的な入門書は吉川洋『ケインズ』(ちくま新書)がお勧め。
◆挑む
『一般理論』の全体を把握するには、山形浩生翻訳『要約 ケインズ雇用と利子とお金の一般理論』(ポット出版)が便利。平井俊顕『ケインズ100の名言』(東洋経済新報社)も幅広い分野での発言が読める。
◇哲学、政治、魔術に強い好奇心 京都大教授(現代哲学)・伊藤邦武さん
ケインズが残した『確率論』は論理学、哲学の分野でも有名です。ケンブリッジ大時代には、哲学サークルに出入りし、ラッセルやウィトゲンシュタインら、後に歴史に名を残す哲学者たちと、終生親しい関係を築きます。頭のよさは、ラッセルが「(話すと)自分が愚かものである気がした」というほど。哲学者としても一流でした。
魅力に感じるのは「統一性のなさ」です。哲学者にして経済理論家。そして、第1次大戦後は、戦後賠償について英国代表として国際政治の最前線で論陣を張ったり、当時のチャーチル財務相に金本位制を巡って助言したりと、政治にも積極的にかかわります。
一方、ケンブリッジ大の先輩にあたるニュートンについての論文も発表しています。当時詳細が知られていなかった彼の魔術研究について、収集癖があったケインズが、資料を発掘して書いています。
数学の達人でしたが、経済学はモラルサイエンス、つまりは人間科学であることを強調しました。人間が備える理性と不合理性の両方のいずれをも考慮する必要があると。彼の人としての多面性が反映された考え方にも思えます。
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国の政策は長期展望に立ってやって欲しいと思う者ですが、長期的には人は皆死ぬとは迷言?です。次から次へ死ぬ人と生まれる人がいるんですが。
『不況の時は穴を掘って埋めるだけでも意味がある』とケインズは言ったのか?
著者:ケインズ、間宮陽介 出版社:岩波書店 価格:¥ 1,575
長引くデフレ不況からの脱却を巡る経済政策論争が喧(かまびす)しいなか、2週連続で経済思想を特集する。今回は、一度は「死んだ」とまで言われたが、改めて注目を浴びるこの人だ。
ジョン・メイナード・ケインズは、恵まれた家庭で育ち、幼少時から誰もが一目を置く大秀才だった。研究生活の一方、現実政治に深く関わる。株の投機にのめり込み、財産を失いかける「ばくち打ち」の顔もある。
一大センセーションを起こしたのが52歳で発表した『一般理論』だ。当時の主流経済学は、失業について、賃金の高止まりが原因で、企業が人を雇わなくなるなどと説明。長期的には市場が解決すると考えた。
だが、ケインズは企業や消費者が、モノやサービスを買わなくなる「需要不足」に着目し、従来の「不況」観を一新した。経済学者が長期的な視点で考えがちな傾向を「長期的には人はみな死ぬ」と警鐘を鳴らし、短期的な経済政策の意義を強調した。
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ケインズ政策の「代名詞」は公共事業だ。「穴を掘って埋める」だけでも、雇用が生まれて意味があると考えていたと説明される。
平井俊顕・一橋大学客員教授(経済学史)は、公共事業を重視していたのは「政府の慎重すぎる行動は失業を悪化させるだけと考えていたから」と説明する。
ただ、実は「死亡宣告」を一度受けた考えだ。先進各国がケインズ政策を採用した1970年代、インフレと不況が同時に進むスタグフレーションが起きた。欠陥が指摘され、市場の機能をより重視する立場が主流になった。
だが、その潮目も2008年のリーマン・ショックで変わる。不況脱却にオバマ米大統領が打ち出したのは、多額の公共事業を盛り込んだ7870億ドル(約74兆円)の景気対策だ。米国を中心に話題を集めたネット動画「ケインズVS.ハイエク」でケインズ役の男は、自信満々の様子で論敵に言う。「不況はエンストのようなもの。起動させるには点火が必要。09年で大不況は終わっただろ」
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ただ、平井さんは「財政政策はあくまで需要をつくる『処方箋(せん)』の一つ。本人が終生重視したのは貨幣や金融の役割です」と指摘する。財政政策ばかりが注目されがちだが、ケインズは不況と「お金」の関係も分析していた。
松尾匡(ただす)・立命館大教授(理論経済学)は「不況の原因とみなしていたのは、お金を手元におきたいという欲望だ」と話す。先行き不安が募り、モノの価格が全般的に下がる「デフレ」になると、お金の価値は持っているだけで相対的に上がる。すると人はモノを買わず、需要が拡大しない。こうして不況が生まれてしまうと考えた。
松尾さんは「お金を手元に置くメリットを下げる。このケインズの考えは、現代の金融緩和にもつながっている」と指摘する。
短期的な景気変動が生み出す負の帰結に敏感だったケインズ。デフレに苦しむ日本を見たらどんな政策を打ち出すだろう。(高久潤)
◆読む
ケインズという人を丸ごと知りたい人には、大著だがジル・ドスタレール『ケインズの闘い』(藤原書店)。新書で読める包括的な入門書は吉川洋『ケインズ』(ちくま新書)がお勧め。
◆挑む
『一般理論』の全体を把握するには、山形浩生翻訳『要約 ケインズ雇用と利子とお金の一般理論』(ポット出版)が便利。平井俊顕『ケインズ100の名言』(東洋経済新報社)も幅広い分野での発言が読める。
◇哲学、政治、魔術に強い好奇心 京都大教授(現代哲学)・伊藤邦武さん
ケインズが残した『確率論』は論理学、哲学の分野でも有名です。ケンブリッジ大時代には、哲学サークルに出入りし、ラッセルやウィトゲンシュタインら、後に歴史に名を残す哲学者たちと、終生親しい関係を築きます。頭のよさは、ラッセルが「(話すと)自分が愚かものである気がした」というほど。哲学者としても一流でした。
魅力に感じるのは「統一性のなさ」です。哲学者にして経済理論家。そして、第1次大戦後は、戦後賠償について英国代表として国際政治の最前線で論陣を張ったり、当時のチャーチル財務相に金本位制を巡って助言したりと、政治にも積極的にかかわります。
一方、ケンブリッジ大の先輩にあたるニュートンについての論文も発表しています。当時詳細が知られていなかった彼の魔術研究について、収集癖があったケインズが、資料を発掘して書いています。
数学の達人でしたが、経済学はモラルサイエンス、つまりは人間科学であることを強調しました。人間が備える理性と不合理性の両方のいずれをも考慮する必要があると。彼の人としての多面性が反映された考え方にも思えます。
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国の政策は長期展望に立ってやって欲しいと思う者ですが、長期的には人は皆死ぬとは迷言?です。次から次へ死ぬ人と生まれる人がいるんですが。