田坂広志 「風の便り」 特選 第78便
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「師の一言」によって訪れるもの
学生時代、スキーを習っていたときのことです。
急な斜面の滑り方を覚えるために、
若手のコーチについて教わっていたのですが、
なかなか滑れるようになりません。
エッジの利かせ方、膝の屈伸、体重の抜重、
前傾姿勢、ストックの使い方。
そうしたテクニックについて、若手コーチは、
一つひとつ懇切丁寧に教えてくれます。
しかし、それぞれのテクニックについては、
何度も練習し、身につけたはずなのですが、
急な斜面を滑ってみると、うまく滑れない。
そうして悪戦苦闘していると、
それを見ていた年配のコーチが、
一言、アドバイスをくれました。
君は、斜面を怖がっている。
転ぶことを恐れずに、
斜面に飛び込んでみなさい。
この言葉を聞いて、腹を括り、
思い切って、斜面に向かって飛び込みました。
その瞬間、驚いたことに、
それまで身につけてきたテクニックが一つになり、
全身が自然に動いて、滑れるようになったのです。
この経験から、大切なことを学びました。
高度な技術を習得するとき、
身につけた一つひとつのテクニックが、
「全体性」を獲得する瞬間がある。
そして、その瞬間は、
ときに「師の一言」によって訪れる。
そのことを学んだのです。
2002年9月5日
田坂広志
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含蓄がありますね。