気まぐれ何でも館:(527)山崎方代(伽葉)(3)
  
 おだやかな生の音なり柚の実が枝をはなれて土を打ちたり
  
 奴豆腐は酒のさかなで近づいて来る戦争の音を聞いている
  
 道ばたの杭の頭にあたらしい麦藁帽子をかぶせてやりたり
  
 みの虫は袋を吊しゆられおるこの人生にはかのうまいぞい
  
 御形見の空の徳利にたぶたぶと芋焼酎をわれ満たしたり
  
 おとがいのあたりは親の親に似て鯖の干物にそっくりである
  
 南天の箸を作りて名も知らぬ秋の茸を食べておる
  
 あかあかと夕日が山を下りてゆく何処かで一度見たことがある
  
 平和とはかかるものにてありけらしメコンは雨季を待っておる
  
 おとがいの痣に生えたるかみの毛も太く短く白くなりたり
  
 仕舞い忘れしランプの火屋を磨きあげてかたみの品の数に加える
  
 世間からお隣さんからも気付かれず鉄砲百合の花を育てる
  
 一畳の青いたたみを買うてきて久方ぶりに横になりたり
  
 酒煙草のみほうだいの生涯を名前に因んでのんでいる
  
13.1.25 抱拙庵にて。