気まぐれ何でも館:(526)山崎方代(伽葉)(2)
  
 実朝の首の銀杏に古びたる恋文をそっと結びきにけり
  
 一粒の卵のような一日をわがふところに温めている
  
 わたくしの六十年の年月を撫でまわしたが何もなかった
  
 歳の暮より咲きつぎてきし侘助にとうとう花がなくなっていた
  
 柿の木の梢(うれ)から落ちてたっぷりと浮世の夢を味わいにけり
  
 たんぽぽを堀りとってきて正月の小屋にこもりて眼をほそめいる
  
 ごみ臭い支那の茶を点ていかめしく今日のひと日を大切にする
  
 今日ひとひ古街道に鎌を入れ蛍ぶくろの花を残した
  
 天に向き伸びあがりたる青じそもほのかに花を点しはじめた
  
 ああ今日は山崎一郎の御命日歌の仲間の一号である
  
 夕日の中をへんな男が歩いていった俗名山崎方代である
  
 まるやきにあぶって食べし小綬鶏の肉のうまさを思い出したり
  
 食いこめる天秤棒を右肩へぐるりとうつす力がほしい
  
13.1.19 抱拙庵にて。