気まぐれ何でも館:(523)近藤芳美(吾ら兵なりし日に)(2)
耳にかけて血を吹き伏せる兵のかたへ吾の担架は並べ置かれつ
起き直り包帯のしらみ取りて居り表情のなき傷兵の日々
うはごとに敵襲叫ぶ患者あり関りもなき病室の中
隊の位置知るよすがなき寂しさに松葉杖つき訪ひて来る友
問はるるまま手紙の文字も教へつつ吾にみなやさし農民の兵
病衣を武装に換へて来し兵の将棋幾番かさして発ち行く
蚊遣火をたく夏は来ぬいくたびか遺骨の前に焚きし蚊遣を
青蚊帳を吊りて寝る夜を言交はし沖縄の兵とも心親しき
うすくなりしてのひらの血を透し居つ思考なき日のかく楽しきに
まさびしき夢精をしたりうつしみは稚なき兵に並び覚めつつ
後送され来し一人をかこみ前線を問ひただしをりたれも眠らず
死せる兵運ばれ去られ夜具ひとつたたまれてをり朝かげの中
残飯をあつむる捕虜らの「露営の歌」いつか病兵も声合せつつ
12.12.29 抱拙庵にて。